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- 田口 文広
- Nippon Veterinary and Life Science University, Laboratory of Virology and Viral Infections.
書誌事項
- タイトル別名
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- Coronaviruses
抄録
コロナウイルス(CoV)はアーテリウイルスと共にニドウイルス目に属するウイルスであり,ゲノムは約30 kb(+)鎖でエンベロープを持つRNAウイルスである.CoVの特徴は,mRNAの構造にあり,ゲノムRNA 3‘側から5‘側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され,各々のmRNAの5‘末端にはゲノムRNA 5’末端に存在するリーダー配列を持つ.その構造から,mRNAは不連続のRNA合成によりできあがることは推測されるが,その機構については,現在も2つの仮説が存在し,いずれが正しいのか決定的な実験的証明はなされていない.ウイルス蛋白の翻訳は一般に各々のmRNAの5‘末端に存在するORFからのみ翻訳される.ゲノムRNA (mRNA-1) の5‘末端約20kbには2つのORF(1aと1bで802kDaをコードする)からなる.このORF間には,pseudoknot(Pn)と呼ばれる複雑な3次構造を持つ領域があり,そのため1a蛋白だけで翻訳が終止する場合と,Pnにより,1a + 1b融合蛋白が合成されるケースがある.1a + 1b蛋白は16個の調節蛋白に解裂され,プロテアーゼ,RNA polymeraseとして働く他に,細胞の蛋白合成を抑制するような蛋白も同定されている.基本的に,mRNA-2以下のものからは,構造蛋白が翻訳される.マウス肝炎ウイルス(MHV)では,mRNA-3, 5b, 6,7から,それぞれspike(S),envelope (E),integral membrane (M),necleoprotein (N)が翻訳される.合成されたM, E蛋白は小胞体からゴルジ装置に至る細胞内小腔に親和性を持ち,M蛋白にRNA-N複合体とS蛋白が結合し,小腔内に感染性粒子として出芽し,exocytosisで細胞外に放出される.最近,細胞外放出にも宿主のプロテアーゼが関与していることが報告されている.
収録刊行物
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- ウイルス
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ウイルス 61 (2), 205-210, 2011
日本ウイルス学会