膝屈曲時の膝窩痛発現に関する解剖学的検討

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抄録

【目的】膝屈曲時に膝窩痛を訴える患者は腓腹筋内側頭(以下、内側頭)起始部に多くを認める。そこで今回、その部位が発痛部位となる理由について遺体解剖を通して調べたので考察を加えここに報告する。【対象】 熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体8体12肢【方法】1)内側頭と腓腹筋外側頭(以下、外側頭)のそれぞれの起始付着部(以下、付着部)について精査と、膝裂隙から付着部までの距離を各々計測した。2)遺体で膝屈曲時に大腿骨顆部後方と脛骨上関節面後縁部で圧迫される組織を調べ、その組織が圧迫され始める時の膝屈曲角度を測定した。【結果】1)内側頭付着部は大腿骨内側上顆後方及び関節包であり、関節包との間には滑液包が認められた。外側頭付着部は関節包及び足底筋外下部であり、大腿骨外側上顆には付着していなかった。大腿骨外側上顆には足底筋が付着していた。また、膝裂隙から付着部までの距離は内側頭で42.6±0.6mm 、外側頭で29.3±0.6mm であった(p<0.01)。2)圧迫された組織は内側頭と足底筋であった。内側頭は鋭角に折り畳まれ圧迫を強いられていた。足底筋は折り畳まれるものの圧迫は軽微であった。その時の膝屈曲角度は内側頭側が103.9±4.9°であり、足底筋側が122.9±9.9°であった(p<0.01)。【考察】遺体での付着部の精査にて、内側頭と足底筋は関節裂隙を跨いで骨に付着するために膝屈曲時に両筋とも折り畳まれること、および膝屈曲時に内側コンパートメントの関節面の接点が外側コンパートメントのそれよりも前方に位置するために大腿骨内側顆部後方に楔状の間隙ができ、屈曲時この間隙に関節包および内側頭が嵌入する可能性があることが判明した。次に、膝屈曲角度において内側頭側と足底筋側の差は、内側頭のボリュームが足底筋のそれに比べ厚いことに起因しており、膝屈曲時には内側頭付着部がより強い圧迫を強いられることが示唆された。このことより内側頭付着部付近は正座やしゃがみ位など膝屈曲にてより損傷されやすい状況であるものと考えられた。しかし、生体の正常な膝関節では他動的屈曲時には関節包内圧の後方での高まり、同じく自動屈曲時には関節包内圧の後方での高まりと収縮している内側頭が付着部の一部である関節包を後方に引くことで関節包および内側頭の嵌入を防いでいると考えられ、内側頭付着部下の滑液包の存在を含めその部位への圧迫を軽減していると考えられる。加えて、変形性膝関節症などに伴う膝窩痛を有する高齢患者を想定した場合、加齢あるいは疾患による筋・関節包の柔軟性低下や短縮や滑液包の柔軟性低下などを背景とした膝屈曲における内側頭付着部付近の圧迫による筋・関節包・滑液包の微細損傷の発生およびその質的変化による筋滑走性の阻害などの可能性が考えられる。以上のことより、膝屈曲時の膝窩痛の発痛部位としては内側頭付着部が想定される。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205565195648
  • NII論文ID
    130004576844
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.210.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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