腰痛と腸腰筋の筋硬結を呈した競輪選手へのモビリゼーションを伴った徒手的理学療法の介入;症例報告

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抄録

【はじめに】今回、我々は競輪選手へ徒手的理学療法を施行し、9ヶ月間の長期欠場を経て競技復帰に至り、好成績を収めている症例について考察を加え報告する。【症例】25歳、男性、競輪選手(S1クラス)。診断名は腰部椎間板障害。MRIでは、L3/L4に椎間腔の狭小化(ヘルニアの痕跡あり)と脊柱管狭窄が認められた。現病歴として1999年頃から左側の腰痛と腸腰筋の違和感、左下肢の筋力低下を自覚。近医や鍼灸院等で治療を行っていたが、症状は改善しなかった。2001年6月競技中の落車転倒後に症状が増悪、ADL制限はなかったが練習や競技の継続が不可能となり、同年7月に当院を受診した。【理学療法所見】左腰痛(特に左腰方形筋の圧痛と違和感、腰部多裂筋や脊柱起立筋の圧痛)、左腸腰筋の違和感があり、それぞれに重度の筋硬結を認めた。膝蓋腱反射は左で減弱しており、筋力は左腸腰筋・左大腿四頭筋でMMT4レベルと筋力低下を示し、左大腿前面から内側にかけて軽度感覚低下を認めた。立位姿勢においては著明な腰椎前弯、脊柱全体に右凸の軽い側弯がみられ、椎間関節、仙腸関節、胸郭の可動性は低下していた。【治療】軟部組織モビリゼーションのツールとしてプレートを使用し、腰椎・仙腸関節・股関節周囲筋へ圧迫や振動刺激を加え筋硬結の除去をはかった。次に関節モビリゼーションを行い関節の可動性を確保し、腰椎前弯の軽減を促すように筋(特に内腹斜筋)の再教育を行った。胸椎・胸郭にも同様な手技を試行し、体幹全体の可動性改善と腰部椎間板障害を助長しないようなアライメント調整能力の獲得を目的とした。また、セルフモビリゼーションも指導し、痛みや違和感のない部位の筋力強化を継続して行った。【結果】5週間の入院治療(25回)と約6ヶ月間の外来治療(18回)を行った。治療開始から10回で左腰痛はほぼ消失し、筋力低下、感覚障害も改善傾向を示した。左腸腰筋の違和感と筋硬結の改善は他の部位に比べやや少なかったが、その後それらの症状は大幅に減少し、治療開始5ヶ月後から本格的に自転車乗車しての練習を開始した。また、乗車姿勢等へのアドバイスも行い、治療開始から8ヶ月後に競技復帰し、復帰直後より好成績を収めている。【考察】競輪では腹腔内圧(IAP)の上昇を伴いながら全身の運動が行われる。それらに大きく関わっているとされる腹横筋は腰部多裂筋や脊柱起立筋とともに体幹伸展モーメントを産生する。しかし、股関節屈曲位で運動を繰り返す競輪では、それらに相対する体幹屈曲モーメントを産生するとされる内腹斜筋を収縮させてのIAP上昇が必要となる。この症例においては、それらの筋出力不足と大腿直筋筋力低下の代償により、腸腰筋に過剰な負荷をもたらしたことが筋硬結やその他の症状の原因と考えた。そのため、腹横筋や腰部伸筋群の筋硬結を除去し、内腹斜筋の収縮をしやすくするために胸椎・胸郭の可動性を改善することが重要であったのではないかと考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680539049344
  • NII論文ID
    130004577151
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.488.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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