視覚-運動覚表象の統合により眼振、及び眼性失調症に改善が認められた1症例

DOI
  • 村部 義哉
    介護老人保健施設 南荘の郷 リハビリテーション科

抄録

はじめに】我々の身体表象は視覚情報と体性感覚情報の換互的な関係性の上に成立している.外部感覚である視覚と内部感覚である運動との間には皮膚感覚(触覚情報)や筋・関節感覚(運動覚情報)が介在する.また、感覚と運動の統合には、脳内ループ(遠心性コピー)、四肢内ループ(筋・関節感覚-運動系)、体表面ループ(皮膚感覚-運動系)、外界ループ(視覚-運動系)といった内部-外部に渡る各ループ間の整合性が必要となる(赤松1993).今回、橋出血による眼振と眼性失調症を呈した症例に対し、各ループの整合性の再獲得による身体表象の再構築を目的に訓練を行ったところ、改善が認められた1症例を報告する.<BR>【対象】本治療経過の発表に同意した脳幹出血発症後5年の45歳男性.両眼に外転神経麻痺、及び垂直性眼振(100‐120回/分)を認める.左半身の各感覚は重度鈍麻であり、随意運動時には失調症状が出現する為、移乗動作、平行棒内歩行は最大介助レベルであった.<BR>【訓練】異なる位置、距離に目印を置き、開眼にて記憶した視覚像と、一度閉眼した後、目印を動かしたとき(または動かさないとき)の視覚像が一致するかを質問する(注意・記憶等の認知機能の動員による視覚運動の制御).その後、上下肢末端を他動的に目印へ動かし、その視覚像と、一度閉眼した後、四肢末端を動かしたとき(または動かさないとき)の視覚像が一致するかを質問する(各ループの統合、及び脳内ループの形成).<BR>【結果】眼振の軽減が認められ(30‐60回/分)、注意を用いれば眼振の制御が可能となった.感覚障害に関しては身体部位による不均等性は認めるものの、軽度~中等度鈍麻への改善が認められた.眼性失調症の軽減により、移乗動作、平行棒内歩行が近位監視にて可能となった.<BR>【考察】感覚-運動統合には主体の能動的思考による各感覚モダリティと遠心性コピーの相互関係が重要となる.Churchlandは動作の協調性には身体部位の位置関係や動的関係性、及び感覚入力との整合性の保証による身体表象の獲得が必要であるとし、その獲得には視覚空間座標と運動空間座標の相互的な情報変換(遠心性コピーの生成)が必要としている.また、Stevensは薬物的に眼筋を麻痺させた被験者を用いた実験から、脳内での視覚像の予測が実際の知覚体験を変化させる可能性を示唆した.本症例は眼振による視覚情報の変質から、外界ループと他のループ系が解離した結果、感覚-運動統合が障害されたものと思われる.更に、付随的な体表面ループ、四肢内ループの変質により、身体表象が変質した結果、外界-脳内ループ間に解離が生じ、眼振の制御が困難となっているものと考察した.本症例は、脳内視覚像の予測(脳内ループ)を用いた視覚空間座標(外界ループ)と運動空間座標(四肢内、体表面ループ)の整合性の再獲得により身体表象が修正された結果、症状の改善が認められたものと思われる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), B3P2271-B3P2271, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543037568
  • NII論文ID
    130004580466
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p2271.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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