温泉入浴により血中IL-6濃度は増加する

DOI
  • 児嶋 大介
    那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科
  • 木下 利喜生
    那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科 公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 東山 理加
    那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科
  • 太田 晴基
    那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科
  • 山本 洋司
    那智勝浦町立温泉病院リハビリテーション科
  • 下松 智哉
    公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 梅本 安則
    公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科
  • 田島 文博
    公立大学法人和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • 温泉の効果を科学する

抄録

【目的】<BR> 日本古来、温泉に浸かると体調が整い元気になるというような伝統的な民間療法が伝承されており、また、運動を行うことにより同様の効果が得られる。運動による全身調整効果は近年Pedersonらによって明らかにされた。骨格筋は単なる運動器ではなく、収縮することにより、サイトカインの一種であるインターロイキン6(以下IL-6)を多量に放出する内分泌器官であることが明らかになった。さらに、筋繊維から分泌されるIL-6をはじめとしたサイトカインは、これまで認識されてきた液性免疫の中心的役割を担うだけでなく、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインであることが示され、Myokinesと命名された。我々は、温泉入浴の効果が免疫系・代謝系等多岐にわたる事から、温浴がmyokinesを発現させ、元気になり、体調が整う等の生体への様々な効果を上げているのではないかと推測した。過去にも頚下浸水においてIL-6の変化について言及されることはあったが、結論は出ていない。そこで我々は温泉における頚下浸水の前後で血中IL-6濃度を測定した。<BR><BR>【方法】<BR> 被検者は若年健常男性8名(年齢26.9±4.1歳、身長172.6±8.6cm、体重66.3±6.8Kg)とした。また、全ての被検者は測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被検者は、中性温の室内で安静座位をとり、血圧・心拍数が安定した後、30分間の浸水前測定を行った。その後、42°Cの温泉に20分間頚部までつかり(頚下浸水)、その後再び中性温の室内で安静座位を1時間とった。採血は浸水前、浸水直後、浸水1時間後に医師が行い、左前腕から1回20mlを採血し、ただちに遠心分離機で血漿・血清を分離させ、ELISA法により血中IL-6、TNF-αを測定した。また白血球数、およびその分画である単球、ヘマトクリット値、CRPの測定も行った。さらに実験中は舌下温をモニタリングした。<BR>温泉は那智勝浦町立温泉病院地下から湧き出るものをボイラーで温度調節し、使用した。<BR>controlの為、2日間以上の期間をあけて、入浴を行わない対照実験を行った。<BR>結果の解析はANOVAを行い、post hocテストでLSDを用いて負荷前後での検定を行い、有意水準は5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており、実験に先立って被検者には研究の主旨と方法を十分に説明し、同意を得てから施行した。<BR>【結果】<BR> 温泉での頚下浸水負荷前後のIL-6濃度は、入水前:0.88±0.13pg/ml 入水直後:1.20±0.32pg/ml 回復後: 1.75±0.65pg/ml であり、温泉での頚下浸水負荷20分による血中IL-6濃度の上昇が認められた(P<0.05)。TNF-α、白血球数、および単球、ヘマトクリット値は入水前後において有意な変化は認めなかった。舌下温は入水前:37.4625±0.25°C 入水直後:39.2625±0.72°C 回復後: 37.7625±0.40°C であり、入水前後で舌下温の上昇が認められた(P<0.01)。またcontrol群において血中濃度・舌下温は有意な変化が認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常者において、温泉入浴によりIL-6の血中濃度が上昇した。今回、ヘマトクリット値の変化を認めなかったため、血中IL-6濃度の上昇や、その他の血液データは脱水による影響は受けていないと考えられる。<BR>一般に、IL‐6は炎症反応により単球から分泌されるpro-inflammatoryな物質であると考えられている。それに対して、Pedersenらは筋収縮により分泌され、anti-inflammatoryなものであると主張する。今回の研究では、pro-inflammatory 物質であるTNF-αの上昇もなく、単球の増加もないため、炎症反応による血中IL-6濃度の上昇は否定的である。一方、温泉入浴中に筋肉を収縮するような運動も実施していないため、筋肉からIL-6が産生されたとも考えにくい。<BR>今回の結果より、IL-6の上昇はpro-inflammatoryなものとは考えにくく、その上昇メカニズムとして現在わかっているもの以外の存在が推測される。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により、理学療法の一つの柱である物理療法の源流ともいえる温泉療法効果発現の根幹に迫ることが出来た。温泉入浴が運動負荷と同様にIL-6を上昇させる事実は、IL-6を発現するだけの運動が行えない高齢者や障害者の健康維持の一助となる可能性を示した。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1044-A4P1044, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566918272
  • NII論文ID
    130004581793
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1044.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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