Pusher現象を認めた症例に対し,体性感覚を利用したアプローチにより座位保持を獲得した一症例

DOI
  • 西 貴弘
    (財)白浜医療福祉財団 白浜はまゆう病院 南紀白浜温泉リハビリテーションセンター
  • 北本 健太朗
    (財)白浜医療福祉財団 白浜はまゆう病院 南紀白浜温泉リハビリテーションセンター
  • 宇井 隆人
    (財)白浜医療福祉財団 白浜はまゆう病院 南紀白浜温泉リハビリテーションセンター
  • 谷口 博
    医療法人穂翔会村田病院 リハビリテーション科
  • 小口 健
    (財)白浜医療福祉財団 白浜はまゆう病院 南紀白浜温泉リハビリテーションセンター

書誌事項

タイトル別名
  • 視覚を利用したアプローチでは,改善が得られにくかった症例を通じて

抄録

【目的】<BR> Pusher現象は,端座位などにおいて麻痺側に押すことにより日常生活活動及びリハビリテーションの阻害因子の一つとなる.Karnathらは,pusher症例のリハビリテーションとして姿勢の認知的歪みを認識することや視覚的垂直認知と身体的垂直認知の関係性を認知し直立姿勢を学習することが重要であると報告している.今回,端座位保持獲得を目標に,初期では,視覚的フィードバックを用い,後期では,体性感覚フィードバックを用いての介入を実施し,比較検討を行った.結果、視覚的フィードバックの治療期間後に比べ体性感覚へのフィードバックの治療期間後で,座位保持能力の向上と正中指示課題,pusher現象において改善を認めたので報告する.<BR>【方法】<BR> 対象は80歳代男性.2008年9月に右中大脳動脈閉塞症により,左片麻痺,pusher現象,左半側空間無視(以下USN)を認めた.発症後54日から理学療法を実施した.<BR> 初期評価:Brunnstrom recovery stage(以下BRST)は上肢1,手指1,下肢2,感覚は表在,深部感覚ともに重度鈍麻,改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)は25/30点,Audio Motor Method(以下AMM)は正答率80%,的中率38.8%,Behavioural inattention test 行動性無視検査日本版(以下BIT)は通常検査成績92/146点,行動検査成績37/81点,Contraversive pushing臨床評価スケールは6(最重症),正中指示課題は正中より右側に6cm偏移していた.静的座位保持では,麻痺側に傾倒するため,自己での座位保持が困難であり介助を要する状態であった.<BR> 同年11月19日~12月3日に,姿勢鏡を用い,視覚的フィードバック課題を実施した.課題手順は,視覚的に体幹の傾きを確認し,徐々に座面と垂直軸の正中位方向に他動的に体幹を移動し,自己の認識している正中位を確認した.次に,自己の認識した正中位から,他動的に座面と垂直軸の正中位に体幹を移動し,自己の姿勢を視覚で確認しながら自己の認識している正中位と,座面と垂直軸の正中位との差の修正を口頭指示にて繰り返し実施した.<BR> 同年12月4日~26日に,体性感覚フィードバック課題を実施した.課題は,閉眼にて実施し,前額面では正中,右側屈,左側屈,矢状面では正中,前屈,後屈と各3方向を定めた。課題手順としては,他動的に座面と垂直軸の正中位と,左側屈,右側屈の傾斜位置を確認した.次に,自己の認識する正中位を確認し,座面と垂直軸にある正中位との差の修正を,姿勢の傾きと対象者自らの言語化を基に繰り返し実施した.矢状面で実施した後,前額面で実施し,その後に前額面と矢状面を合わせて実施した.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には,発表の趣旨と目的を文書にて説明し,発表を行うことに関しての同意を署名にて得た.<BR>【結果】<BR> 視覚的フィードバック治療後の結果では,AMMは正答率88%,的中率41.1%と改善がみられたが,他の項目に関しては初期評価時と変化を認めなかった.<BR> 体性感覚フィードバックによる治療後の結果では,BRST,感覚,AMM,BITともに視覚的フィードバック治療後と変化は無かったが,正中指示課題での右側への偏移が6cmから0.5cmと減少し,静的座位保持が0秒間から10分間に増加した.フィードバック時の発言も「腰で姿勢を感じている」と下部胸椎部を指差した.Contraversive pushing臨床評価スケールは6から0.25に改善がみられた.また,車椅子座位保持において「楽になってきた」と発言があった.<BR>【考察】<BR> 結果より体性感覚フィードバックの治療後にて,端座位姿勢の改善や,正中指示課題,静的座位保持時間において改善が見られた.Karnathらはpusher現象について,開眼時の視覚的垂直認知は正立しているが閉眼時の身体的垂直認知が健側へ偏移していると報告しており,感覚モダリティによって垂直認知が異なることを示した.今回,「腰で姿勢を感じている」というように,体性感覚に注意を向け,必要な情報を選択できるようになり,体幹の深部感覚の認知が可能になると共に身体的垂直認知が再構築されたことが改善に繋がったのではないかと考えた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 現在,pusher現象に対するアプローチにおいて,視覚系への感覚入力と体性感覚系への感覚入力とどちらが効果的かは不明な点がある.しかし,今回の症例を通し,体性感覚に対して注意を向け姿勢を認識することにより,pusher現象が改善することが確認できた.よって,理学療法実施時においても体性感覚情報を理学療法の一部として導入していく必要性があると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P3080-B4P3080, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548416896
  • NII論文ID
    130004582160
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p3080.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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