外反母趾変形が立脚後期の前足部に加わる足圧分布に与える影響

DOI
  • 地神 裕史
    新潟医療福祉大学 医療技術学部 理学療法学科 新潟大学大学院医歯学総合研究科 整形外科分野
  • 椿 淳裕
    新潟医療福祉大学 医療技術学部 理学療法学科
  • 佐藤 成登志
    新潟医療福祉大学 医療技術学部 理学療法学科
  • 遠藤 直人
    新潟大学大学院医歯学総合研究科 整形外科分野

抄録

【目的】<BR> 近年、モータリゼーションの発展やライフスタイルの変化により歩行の機会が減少し、そのことが様々な骨関節系のトラブルを引き起こしている。外反母趾もその一つで、歩行機会の減少やファッションの欧米化に伴う履物の変化から、足趾や足底筋膜の機能不全、縦・横アーチの低下を引き起こし、二次的に生じるといわれている。医療保険の適応となる病的な外反母趾の診断基準には合致しない、いわゆる外反母趾予備軍は本邦において老若男女問わず増加傾向にあるといわれており、様々な分野でクローズアップされている。<BR> 正常歩行における推進力は足関節や前足部が地面を蹴り出すことによって得られるが、外反母趾患者やその予備軍の蹴り出しは、母趾の先端まで使えず母指球に多大なストレスを与えている場合が多く、そのことが更なる痛みを助長していると推察される。<BR> よって今回、歩行時に痛みを有さない健常者の足圧分布を測定し、母趾や母趾球に加わる圧変化と足部の形態学的異常との関係を明らかにすることを目的に本研究を行った。<BR>【方法】<BR>対象は歩行時に下肢に痛みを有さない健常者12名(25~64歳、平均年齢44.8±16.4歳)とした。方法は、足部の形態学的評価として(1)足長、(2)足囲、(3)アーチ高、(4)アーチ長、(5)アーチ高率(アーチ高/足長×100)、(6)外反母趾角度(Hallux Valgus Angle:HVA)、(7)第1中足骨の縦軸線と第2中足骨の縦軸線の角度(M1M2角)、を測定した。歩行能力の評価としてTimed up and go testを実施した。また、歩行時の足圧分布を足圧分布測定機器(ニッタ株式会社製)にて測定した。歩行時の立脚後期の蹴り出しの際に前足部に加わる足圧分布を母趾球エリア、母趾エリア、第2~5趾エリア、それ以外、の4分割にし、各々のエリアに加わる圧変化と形態学異常との関係を検討した。測定はすべて右側で統一し、歩行条件は最大速歩とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者への説明と同意は、書面と口頭にて研究概要と目的を説明し、同意書に署名をいただいた。なお、本研究は新潟医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を経て行った。<BR>【結果】<BR> アーチ高は平均3.4±0.5cm、外反母趾の程度を判断するHVAは平均17.1±4.6°、M1M2角は平均13.8±1.8°であった。立脚後期の蹴り出し時に前足部にかかる圧の総和を100%としたときの、各エリアにおける圧分布は、母趾球エリアで34.2±14.2%、母趾エリアで16.2±5.3%、第2~5趾エリアで9.6±6.2%、それ以外のエリアで40.0±13.7%であった。蹴り出しの際の母趾球と母趾に加わる圧の比率を母趾球の圧/母趾の圧(母趾球/母趾比)で表すと平均で2.2±1.0であった。形態学的にはHVAが15°以下、M1M2角が10°以下であれば正常範囲と言われているが、今回HVA15°以上は58.3%、M1M2角が10°以上が91.7%であった。HVA15°以上の7名を外反母趾群、15°未満の5名を正常群と分けた場合、外反母趾群の母趾球/母趾比は2.8±0.7あり、正常群の1.3±0.7と比較し有意に増大していた(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 歩行時に下肢に痛みを有さない健常者を対象に計測を行ったが、半数以上の対象者がHVA15°以上で形態学的な異常が認められた。様々な先行研究で近年無痛性の外反母趾が増加していることを報告しているが、本結果はこれらの先行研究を支持する結果となった。<BR> 今回、蹴り出しの際の母趾球と母趾の使用割合を明らかにする為に母趾球/母趾比を算出したが、この値は外反母趾群が有意に増大していた。この結果は歩行時の推進力を得るために必要不可欠な蹴り出しが、外反母趾群では母趾の先端ではなく、母趾球で生み出されていることを意味している。そもそも外反母趾は第1中足趾節関節で母趾が外反変形した状態と定義されるが、この状態は第1中足骨の内反を伴うことが多いとされる。このような形態学的な変化は長・短母趾屈筋の収縮時の作用方向を変化させてしまうため、蹴り出しの際に母趾の先端で蹴り出すことが難しくなると考える。<BR>【理学療法研究としての意義】<BR>今回用いた母趾球/母趾比は、歩行時の蹴り出しをどの部位で行っているか評価し、特定の部位に過剰なストレスが加わっていないか評価する上で有用な指標であると考える。また、このような指標を用いて歩行解析を行うことで二次的な外反母趾変形による痛みの出現や、変形の進行を防止する上で非常に重要であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2231-C4P2231, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549061888
  • NII論文ID
    130004582494
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p2231.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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