性差及び足関節捻挫既往がジャンプ着地動作に与える影響
抄録
【目的】前十字靭帯損傷(以下ACL損傷)はジャンプや方向転換を行なうスポーツに多く発生し,ジャンプ着地時の過度の膝関節外反や不十分な膝関節屈曲において損傷リスクが高く,発生率は男性に比べて女性の方が高いと報告されている.また,足関節捻挫既往者は,捻挫既往による足関節背屈可動域制限が生じることによって,ジャンプ着地時の膝関節屈曲角度が小さくなり,ACL損傷リスクが高くなる可能性が考えられる.そこで,本研究では性差および足関節捻挫既往がジャンプ着地動作に与える影響を,下肢の各関節角度に注目して検討した.<BR><BR>【方法】対象は,足関節捻挫既往のある大学生14名(既往群:男女各7名),足関節捻挫既往のない大学生14名(対照群:男女各7名)とした.対象者は全て膝関節疾患の既往がないものとし,既往群は足関節捻挫によって医療機関を受診した者を対象とした.動作課題は,最大努力の70~80%の力で床面から両脚で垂直跳びを行い,その後片脚で着地するものとした(既往群は捻挫既往のある脚,対照群は利き脚).この動作を,ランドマーク(肩峰,上前腸骨棘,大転子,膝蓋骨中央,膝関節裂隙,脛骨結節,足関節外果,足関節内果・外果中央)を付け,前方(前額面)と側方(矢状面)からデジタルビデオカメラ2台を用いて撮影した.画像の解析にはsilicon COACH Student(silicon COACH社製)を使用し,ジャンプ着地動作時の膝関節最大外反角度,股関節・膝関節最大屈曲角度,足関節最大背屈角度,静止立位のQ-angle,立位で下肢を前後に開き前側の下腿最大前傾位での足関節背屈角度を算出した.測定したジャンプ動作3回を解析対象とし,3回の平均値を求めた.統計処理は,男女間,既往群・対照群間の各測定項目の比較には対応のないt検定を用い,足関節背屈角度とジャンプ着地動作時の足関節最大背屈角度,足関節背屈角度とジャンプ着地動作時の膝関節最大屈曲角度の相関には,Pearsonの相関係数を用いて検定した.それぞれの有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】対象者には研究の目的と内容,リスク,個人情報の保護についての説明を十分行い,参加同意書に署名を得たうえで実施した.<BR><BR>【結果】男女間で各計測項目の比較を行なった結果,足関節背屈角度,ジャンプ着地動作時の股関節・膝関節最大屈曲角度では女性の方が有意に低値を示し,Q-angle,ジャンプ着地動作時の膝関節最大外反角度では女性の方が有意に高値を示した(p<0.01).既往群・対照群による比較では,足関節背屈角度,ジャンプ着地動作時の股関節・膝関節最大屈曲角度,足関節最大背屈角度は既往群の方が低値を示したが,各計測項目に有意差は認められなかった.既往群の足関節背屈角度とジャンプ着地動作時の足関節最大背屈角度に相関は認められなかった.既往群の足関節背屈角度とジャンプ着地動作時の膝関節最大屈曲角度に有意な相関が認められた(r=0.567,p<0.05).<BR><BR>【考察】先行研究では,ジャンプ着地動作時の膝関節の屈曲角度が小さいと膝関節に加わるエネルギーを筋で十分に吸収できず,骨や靭帯など他の構成要素にかかる負担が増大すると報告されている.また,膝関節屈曲角度が小さいとACL損傷リスクが高いという報告もある.本研究の結果では,ジャンプ着地動作時の股関節・膝関節最大屈曲角度は,女性の方が男性よりも有意に低値を示しており,男性と比較して女性のほうがACL損傷リスクが高い可能性が示唆された.また,本研究の結果,既往群の足関節背屈角度とジャンプ着地動作時の膝関節最大屈曲角度に有意な相関が認められた.これは,足関節背屈角度が減少するとジャンプ着地動作時の膝関節最大屈曲角度も減少することを示しており,足関節背屈角度の減少がACL損傷リスクに関連している可能性が示唆された.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果より,足関節捻挫既往者の足関節背屈制限は,片脚ジャンプ着地時の膝関節最大屈曲角度に影響を与え,ACL損傷リスクを高める可能性が示唆された.そのため,足関節捻挫後の背屈可動域の獲得は,足関節捻挫の再発防止のみならず,ACL損傷予防にもつながるのではないかと考える.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), C4P3119-C4P3119, 2010
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572346752
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- NII論文ID
- 130004582501
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可