大殿筋下部線維に対するエクササイズ効果の筋電図学的検討

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著者

    • 川上 祐貴
    • 新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科
    • 地神 裕史
    • 新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科

抄録

【目的】大殿筋は上部線維(以下,UGM)と下部線維(以下,LGM)に分けられ,特に歩行における機能的差異として,UGMは荷重応答期や片脚支持期において対側骨盤の下制の制御に関与し,LGMは立脚初期において屈曲モーメントの制御に関与しているとされる.また臨床上,大殿筋は筋骨格系疾患を有する患者において萎縮の傾向を示すといわれている.Grimaldiら(2009)は核磁気共鳴画像法によって変形性股関節症患者の大殿筋の筋体積を測定したところ,患側LGMの萎縮が認められたと報告している.またKrebsら(1998)によれば大殿筋の筋活動が低下することで歩行中の床反力制御が不可能となり,関節負荷力が増加するとしている.つまりLGMの萎縮は結果的に立脚初期の関節負荷力の増加につながると考えられる.したがって,LGMに効果的なエクササイズを実施することは立脚初期における関節負荷力を減少することができると考える.そこで,本研究の目的は一般的に臨床で用いられている4種類の大殿筋に対するエクササイズにおける筋電図を測定し,UGMとLGMの筋活動比(以下,L/U比),またUGM及びLGMの筋活動量を明らかにすることで,立脚初期におけるLGMの筋機能向上に効果的なエクササイズを検討することとした.【方法】対象は神経筋骨格系疾患の既往のない健常成人男性14名(平均年齢21.3歳)とした.測定課題は腹臥位股関節伸展運動(以下,PLE),PLEに膝関節屈曲90°を加えた運動(以下,PLE2),側臥位股関節回旋運動(以下,回旋ex),ブリッジの4種類とし,各エクササイズ実施時の筋電図を測定した.測定部位はUGMとLGMの2ヵ所とした.筋活動量は最大随意収縮時の筋活動量にて正規化した(%EMG).【説明と同意】対象者に本研究の目的と内容を口頭にて説明し,同意を得た.【結果】L/U比についてはPLE 及びPLE2では有意差は認められなかった.回旋exは有意差が認められ(p<0.05),またブリッジでも有意差が認められた(p<0.005).UGMの筋活動量については,回旋exに対してPLEの筋活動量は有意に大きく(p<0.01),ブリッジに対してもPLEの筋活動量は有意に大きかった(p<0.05).また回旋exに対してPLE2の筋活動量は有意に大きく(p<0.01),ブリッジに対してもPLE2の筋活動量は有意に大きかった(p<0.01).LGMの筋活動量については,回旋exに対してPLEの筋活動量は有意に大きく(p<0.01),ブリッジに対してもPLEの筋活動量は有意に大きかった(p<0.05).回旋exに対してPLE2の筋活動量は有意に大きく(p<0.01),ブリッジに対してもPLE2の筋活動量は有意に大きかった(p<0.01).また,回旋exに対してブリッジの筋活動量は有意に大きかった(p<0.05).【考察】一般的に大殿筋表層の全線維と深層の上部線維は腸脛靱帯に付着し,深層の下部線維は大腿骨の殿筋粗面に付着するとされている.このことからUGMは主に股関節の外転作用を有し,LGMは主に伸展作用を有するとされ,さらに両筋線維共に外旋作用を有するとされている.本研究の結果から,エクササイズ間の筋活動量の比較において,UGMは回旋exとブリッジの間に有意差は認められなかったものの,LGMについては回旋exとブリッジの間に有意差が認められた(p<0.05).またL/U比においても回旋exに対してブリッジでより有意な差が認められた(p<0.005).これはLGMの主要な作用である股関節伸展という要素を反映しているためであると考える.しかし,股関節の伸展運動を含まない回旋exにもL/U比において有意差が認められた(p<0.05).これは殿筋粗面に付着するLGMの方がより股関節の運動に関与しているためであると考える.またPLE及びPLE2は回旋ex及びブリッジの筋活動量に対して有意に高い活動量を示したものの,L/U比に有意差は認められなかった.これは中枢部である骨盤帯の安定性が要求されるためであると考える.Gibbons(2004,2005)によると大殿筋の深層線維の上方と下方に,仙腸関節を横断するのみの筋線維が発見されたと報告しており,これらは仙腸関節の安定性に関与している可能性があると述べている.したがって,PLE及びPLE2を実施する際,中枢部である骨盤帯の安定性を向上させるために,上方と下方にある筋線維が活動し,L/U比に有意差が認められなかったと考える.【理学療法学研究としての意義】大殿筋をUGMとLGMに区別して評価及び治療を実施する必要性が示されている.本研究からもUGMとLGMの筋活動は異なる結果となり,2つの筋線維がより独立した筋活動を示すことが示唆された.またLGMは萎縮の傾向が強く,歩行中の床反力の制御能力の低下をきたすと考えられるため,LGMに効果的なエクササイズを実施することが重要となる.本研究は各大殿筋線維を独立した筋として捉えたとき,大殿筋エクササイズによってはLGM有意な筋活動を示すことを明らかにした.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009(0), H4P3253-H4P3253, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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