水中座位ハンドエルゴメータ運動継続が高度肥満を伴う2型糖尿病患者の心臓副交感神経系活動および尿中アルブミン排泄量に及ぼす影響

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抄録

【はじめに、目的】厚生労働省の報告(2007)によると、糖尿病またはその可能性が否定できない人は約2,210万人に上っている。糖尿病は、心筋梗塞、脳梗塞など大血管に障害をもたらすのみならず、網膜、腎、神経などの細小血管に障害をもたらす。これら合併症を予防し、進行抑制することが糖尿病治療の目的である。治療三本柱の1つに運動療法がある。これまでウォーキングなど多くの下肢運動に着目した報告がなされてきたが、高度肥満を伴った糖尿病患者がこれらの運動を継続することは困難な場合がある。ハンドエルゴメータは有酸素性運動であり、これを座位で行うことは下肢関節にかかる負担を軽減することから運動療法継続に結びつくものと考えられる。一方、運動時に配慮すべき点の1つに、運動時の腎血流量低下に伴う腎機能低下がある。陸上運動と比較し、水中環境では腎血流量低下が抑制されることが明らかになっている。そこで、本研究ではハンドエルゴメータを用い、3ヶ月間の水中運動継続が高度肥満を伴う2型糖尿病患者の心臓副交感神経系活動および尿中アルブミン排泄量にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。【方法】対象は45歳男性の2型糖尿病患者(身長170.8cm、体重121.4kg、BMI41.6、体脂肪率44.7%、腹囲径130cm)。運動プログラムとして対象者は、バイタルチェックの後、更衣し、陸上座位にて5分間の安静をとった。続いて水中に移動し、水中座位(水深60cm)にて10分間の安静をとった。その後50%HRmax強度の水中ハンドエルゴメータ運動を20分間行い、運動終了後5分間の水中回復をとった後、出水した。更衣の後、バイタルチェックを行い終了した。このプログラムを週1回、3ヶ月間継続して実施した。初回および最終回のプログラム時に血圧(BP)、心拍数(HR)、心臓副交感神経系活動(HF)、運動終了後30秒間の心拍減衰時定数(T30)、尿中アルブミン排泄量(UAE)を測定した。運動時の環境は、気温24.2±2.0°C、湿度52.2±10.7%、水温30.8±0.5°Cであった。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言の趣旨に従って研究の目的、方法、予想される結果およびその意義について説明を行い、書面にて同意を得た上で実施した。また、本研究は神戸大学保健学倫理委員会の承認を得た後に実施した。【結果】運動プログラムの出席率は全13回中12回(92.3%)であった。欠席時の理由は、体調不良であった。初回および最終回の陸上安静時収縮期BP/拡張期BP(mmHg)は、130/70、132/68、水中安静時は、136/68、132/78、運動直後は、146/62、138/74、水中回復時は142/66、126/68であった。水中安静時から水中回復時において、最終回の収縮期血圧が低値を示した。初回および最終回の陸上安静時HR(bpm)は、85.1±1.3、67.0±1.5、水中安静時は、82.5±1.3、65.4±1.7、運動時は、92.1±1.9、86.2±3.5、水中回復時は、84.5±3.7、74.2±4.7であった。全てのHR指標において初回と比較して最終回は有意に低値を示した。初回および最終回の陸上安静時HFは、60.2±50.7、188.0±81.1、水中安静時は、5.7±3.1、230.9±76.5、運動時は、16.3±6.7、22.8±16.7、水中回復時は、4.6±1.6、842.9±654.7であった。全てのHF指標において初回と比較して最終回が有意に高値を示した。初回および最終回のT30は、222.2および196.1であり初回と比較して最終回が低値を示した。初回および最終回の運動前後のUAE(mg/gCr)は、34.0、52.2および38.2、28.8と最終回は運動後に低下した。【考察】運動時の血圧上昇は運動継続によって抑制され、水中回復によって安静時の状態にまですみやかに回復した。心臓に近い上肢運動は血圧を上げるとする報告があるが、水中において静脈還流が促進され、大きな上昇なく、回復もすみやかにもたらされたものと考えられた。HRは100bpmを超えることの少ない低強度の運動継続であったが、安静時HRおよび回復時HRが低下するなど循環器系の適応が認められた。副交感神経系活動は最終回において全体を通して大きく亢進し、運動継続による自律神経系機能の改善が示されたものと考えられた。UAEは、初回は運動後に高値を示したが最終回は微量アルブミン尿の判断基準を下回り、運動時の腎負担は大きくないものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】高度肥満を伴う患者が運動継続することは、新たに運動を取り入れるという大きな一歩に始まり、運動時の呼吸苦および心負担、下肢関節にかかる負担、運動が腎機能に与える負の影響等を考えると困難であることが否めない。今回、水中環境において低強度のハンドエルゴメータ運動を用いた糖尿病患者に対する運動療法継続が、合併症進行抑制につながる可能性を示唆したことは、運動療法を一つの柱とする理学療法学において大きな意義を持つといえる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012(0), 48100163-48100163, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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