体幹安定性と運動パフォーマンス
書誌事項
- タイトル別名
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- ローカル筋・グローバル筋に着目して
抄録
【はじめに,目的】近年,体幹安定性の向上により優れた運動パフォーマンスが発揮されると考えられ,体幹安定性と運動パフォーマンスに関する研究が行われている.これらの研究では,両者間に正の相関関係を認めるものが多く,運動パフォーマンス向上に体幹安定性が一翼を担っていると考えられる.また,体幹安定性は骨格・筋・神経系により産生されており,このうち筋群はグローバル筋とローカル筋に分けられ,グローバル筋は表在にある大きな体幹筋群であり,ローカル筋は体幹深部の脊椎分節間制御に関与する筋群である.これら筋群の中でも腹横筋は身体運動に先行して活動を開始し,非方向依存性に脊椎剛性を高めるとして重要視されている. また,障害予防やスポーツ分野では筋バランスが重要とされ,膝関節QH比や肩関節内外旋比などが報告がされている.しかし,体幹のグローバル筋とローカル筋の筋バランスを検証した報告はない. 本研究の目的は,ローカル筋,グローバル筋および体幹筋力比の視点で体幹安定性と運動パフォーマンスの関係性を検証することである.【方法】対象は男子大学野球・ソフトボール選手17名(年齢:20.2±0.8歳,身長:171.5±5.2cm,体重:62.9±4.3kg,BMI:21.3±1.0kg/m²).除外対象は,競技に支障を来たす疾患を有する者とした.腹横筋筋厚計測には超音波画像装置(U-sonic Rtfino:GE横河メディカルシステム),7.5MHzのプローブを用いた.測定部位は,左前腋窩線上で胸郭下縁と腸骨稜の中間点とした.測定肢位は,背臥位とし安静時腹横筋筋厚と収縮時腹横筋筋厚を測定とした.筋厚は上下筋膜間の距離とした.収縮時腹横筋筋厚は,Abdominal Drawing-in Maneuverを3回実施し3回目の値を採用した.腹横筋筋厚変化率は,収縮時腹横筋筋厚と安静時腹横筋筋厚の差を安静時腹横筋筋厚にて除して算出した.腹筋,脊柱起立筋筋力はトルクマシン( system3 ver.3.33:Biodex)を用いて測定した.体幹筋力比は,腹筋筋力と背筋力をそれぞれ腹横筋厚変化率で除して算出した.体幹安定性はFront Bridgeにて1回実施した.頭部,体幹,下肢を一直線上に保つように指示を与え,その肢位の保持時間を測定した.パフォーマンスは瞬発力(50m走,ハンドボール投げ,垂直跳び),敏捷性(反復横跳び),持久性(20mシャトルラン),平衡性(閉眼片脚立位)を測定した.測定方法,分類などの詳細は文部科学省新旧体力テスト実施要項に準じて行った.筋力(大腿四頭筋)は,利き足(ボールを蹴る足)にてHand Held Dynamometer(μTas-1:ANIMA)を用いて測定した.統計処理は,筋力と各パフォーマンスの関係をみるために相関係数を算出するとともに多重回帰分析を用いた.いずれも有意水準を0.05未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意を書面にて得た.【結果】腹横筋厚変化率,腹筋・背筋筋力および体幹筋力比と体幹安定性との間に有意な相関関係を認めなかった.体幹安定性と各パフォーマンスについては,体幹安定性と反復横跳びとの間にのみ有意な正の相関関係を認めた(r=0.55,p=0.02).しかし,その他パフォーマンスとの間には相関関係を認めなかった.さらに,体幹筋力比とパフォーマンスとの間に有意な相関関係を認めなかった.【考察】今回,体幹安定性とパフォーマンスの関係性をローカル筋とグローバル筋という視点から検証した.また,一般的に筋厚は筋力を示すとされているため,本研究における腹横筋筋厚変化率も腹横筋筋力として捉えることができると考える. 本研究では,ローカル筋,グローバル筋および体幹筋力比と体幹安定性に相関関係を認めなった.したがって,それぞれが体幹安定性と単独で関係しているのでなく,体幹筋群を全体的に捉えることが重要であると考える.また,体幹を構成する様々な筋が相対的に弱い筋を補っている可能性が考えられる.そのため,体幹筋力比に関して相関を認めなかったと考える. 体幹安定性とパフォーマンスでは敏捷性との間に有意な相関関係を認めた.素早い方向転換には,体幹の中央での固定性が重要とされる.また,野球選手よりも敏捷性が要求されるサッカー選手で体幹機能が高いとの報告がある.したがって,本研究結果はこれらの報告と一致するものと考える.【理学療法学研究としての意義】敏捷性が要求されるスポーツ選手の理学療法およびトレーニング介入において,体幹安定性向上により高い競技能力獲得が期待されると考える.さらに,体幹トレーニングの方法に関しては,ローカル筋とグローバル筋を個別に捉えるのではなく,体幹機能全体に焦点を当てることが重要であると考える.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101217-48101217, 2013
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680552993920
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- NII論文ID
- 130004585512
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可