当院高度救命救急センターにおいて人工呼吸器装着中から理学療法介入を開始した患者の特徴

DOI

Search this article

Abstract

【はじめに、目的】救命救急領域におけるリハビリテーションは重要であるが、特に人工呼吸器装着患者の報告は乏しい。そこで本研究は、高度救命救急センターの人工呼吸器装着患者に対して理学療法介入を実施した患者の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】2011年4月1日から2012年3月31日までに広島大学病院高度救命救急センター(以下、センター)に入室し、24時間以上人工呼吸器を装着した患者のうち、センター内にて専任の理学療法士により理学療法を実施した患者を対象とした。入室後24時間以内にBest Supportive Careとなった患者、待機手術後の患者、前医から人工呼吸器管理のあった患者は除外した。対象者の入室時診断名、年齢、性別、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation 2(APACHE2) score、センター在室期間、人工呼吸器装着期間、気管切開の有無、再挿管の有無、理学療法介入期間を診療記録より調査した。APACHE2 scoreは重症患者における重症度のスコアシステムであり、12個の生理学的変数,年齢,基礎疾患に基づいて0-71の範囲の点数を算出する指標である。入室時診断名は、疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)を抽出した。人工呼吸器装着中から理学療法介入した患者(以下、装着中介入群)と人工呼吸器離脱後から理学療法介入した患者(以下、離脱後介入群)の各項目の比較は、対応のないt検定、カイ二乗検定、フィッシャーの正確確率検定を用いて検討した。統計処理にはPASW Statistics 18(SPSS Japan)を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認(第疫‐478-1号)を得て実施した。【結果】2011年4月から2012年3月にセンターへ入室した患者の内24時間以上人工呼吸器を装着した患者230例のうち対象となったものは113例であった。装着中介入群は56例、離脱後介入群は57例であった。それぞれの群のAPACHE2 scoreは31.5±8.6、29.9±7.0であり、二群間で有意差を認めなかった。入室時診断名は、装着中介入群では、「呼吸器系の疾患(17名)」、「循環器系の疾患(15名)」「損傷、中毒およびその他の外因の影響(14名)」の順に多く、離脱後介入群では、「損傷、中毒およびその他の外因の影響(24名)」、「循環器系の疾患(20名)」、「呼吸器系の疾患(11名)」の順に多かった(重複あり)。これらの診断分類の割合は二群間で有意差を認めなかった。所属入院科は、装着中介入群と離脱後介入群ともに救急科の患者の割合が最も多い結果となった。装着中介入群は離脱後介入群と比べ、人工呼吸器装着期間(20.3±18.4 vs 8.7±7.5; P<0.001)、センター在室期間(26.8±18.4 vs 18.9±12.7;P=0.009)が有意に長かった。また、センター内での気管切開術実施数に有意差を認めたが(27 vs 10名;P=0.001)、再挿管数には有意差を認めなかった(8 vs 12名)。装着中介入群はセンター内の理学療法介入期間が有意に長かった(17.6±18.6 vs 11.1±13.9日;P=0.038)。【考察】当院において人工呼吸器装着中から理学療法介入を開始する患者の重症度は人工呼吸器離脱後から理学療法介入を開始する患者と比べ有意差を認めなかったことから、入室時の重症度は理学療法開始の時期に影響を及ぼしにくいことが示唆された。また,入室時診断名としては,両群とも上位3位までが「呼吸器系の疾患」、「循環器系の疾患」、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」の3つで占められたことから、高度救命救急センターにおいて理学療法を提供する患者はこれらの疾患を有する患者が多いことが明らかとなった。人工呼吸器装着中から理学療法介入を開始した患者は、人工呼吸器装着期間が長く、気管切開術を行う患者も多く、センター在室期間が長くなる特徴があることから、経過が不良である患者に対して理学療法介入を行なっていた可能性が示唆された。救命救急センターでは様々な科の医師が協働して診療を行なっており、理学療法の介入時期について明確な基準を設けにくいのが現状であり、診断名や担当診療科の違いによる影響を受けている可能性がある。今後は経過を踏まえた病態を詳細に検討し理学療法の適応時期を明らかにするとともに、理学療法介入開始基準の統一を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は、救命救急領域にかかわる理学療法士が人工呼吸器装着患者に対して理学療法介入を実施する際、適応や介入時期を検討する際の一助となる。

Journal

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top