体性感覚刺激が扁桃体中心核セロトニン放出に及ぼす影響

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抄録

【はじめに、目的】理学療法では、体表からの刺激(体性感覚刺激)を用いて種々の機能回復を図るが、その際刺激によって、不安や快感などの情動が起こる。これらの情動は種々の機能に影響を与えるので、体性感覚刺激時の情動反応のメカニズムを知ることは理学療法の効果を知る上で重要である。不安・恐怖などの情動反応をつかさどる主要な脳領域として扁桃体が知られている。扁桃体は側頭葉前部の海馬のすぐ下方に位置し、情動反応とくに恐怖、不安の制御に重要な役割をもつと言われている。扁桃体は主に入力系の基底外側核、外側核、そして出力系の中心核により構成される。なかでも、中心核のセロトニンはストレス刺激により放出量が増加することが知られている。本実験では、その中心核セロトニンに着目し、体性感覚刺激(侵害性並びに非侵害性)の影響をマイクロダイアリシス法により検討した。【方法】Wister系雄性ラット13 匹を用いた。実験2 −3 日前にガイドカニューレの埋め込み手術を行った。実験当日、動物をウレタンで麻酔し、自発呼吸下、体温制御下(37.5 ± 0.1 ℃)で実験を行った。あらかじめ埋め込んでおいたガイドカニューレに微小透析プローブを挿入し、Modified Ringer液(流速1 μℓ/min)で扁桃体を透析した。扁桃体から回収した透析液を、10 分毎に高速液体クロマトグラフィーに注入し、セロトニンの量を測定した。セロトニンのレベルが安定した後にサンプリングを開始した。触刺激と、ピンチ刺激はいずれも10 分間加えた。刺激部位は両側背部、両前肢,両後肢とした。ピンチ刺激には手術用鉗子を用い、約3 kgの力で皮膚をはさんだ。触刺激は徒手的に70 回/分の頻度で加えた。有意差の検定には分散分析ならびに多重比較検定(Dunnett's multiple comparison test)を用いた。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は、国際医療福祉大学の動物実験研究倫理審査委員会の承認のもとに行った。【結果】《ピンチ刺激の影響》背部にピンチ刺激を加えると、セロトニン放出は刺激中の10 分間には刺激前値の122 ± 5%まで有意に増加し、刺激後は刺激前のレベルに戻った。刺激中の増加について刺激部位差(背中,前肢,後肢)を検討したところ、刺激部位による差はみられなかった。《触刺激の影響》背部に触刺激を加えると、セロトニン放出は刺激中には82 ± 3%まで有意に減少し、刺激後は刺激前のレベルに戻った。同様に刺激中の減少について刺激の部位による差を検討したところ、触刺激の場合も刺激部位差はみられなかった。【考察】本実験より、麻酔によって情動の影響をなくした動物において、中心核セロトニンが侵害性のピンチ刺激では増加、非侵害性の触刺激では減少することが初めて明らかとなった。 中心核のセロトニンは、 意識下のラットにおいて拘束ストレスで増加することが報告されている。拘束ストレスは身体への刺激であると同時に情動を介して精神的な刺激にもなりうる点で本研究とは異なるものである。Moらの実験では無麻酔下の動物に40 分の拘束をすると刺激開始から60 分間増加することが示されている。一方、本実験で麻酔下の動物に10 分間のピンチ刺激を行い、刺激中のみ増加することが示された。この違いは、Moらの実験では意識下の実験であり、麻酔の影響を受けやすい高位中枢からの修飾を受けた情報が中心核に入力されるためではないかと考えらえる。以上のことから、本実験において、身体への刺激のみでも扁桃体中心核のセロトニンは増加することが初めて示された。一方、触刺激では中心核セロトニンが逆に減少することが明らかとなった。中心核セロトニンは、視床下部-下垂体-副腎皮質ホルモン分泌を促進することから、ストレス時の生体反応と密接にかかわることが示されている。したがって、触刺激が中心核セロトニン放出を減少させた事実は、触刺激がストレス反応の緩和にかかわる可能性を示唆する。【理学療法学研究としての意義】扁桃体中心核のセロトニンは不安と深い関連があることが知られており、臨床の場面でも不安の訴えが強く理学療法に難渋する症例は多く経験する。今回の研究より、侵害刺激により不安が増強され、非侵害性刺激により軽減できる可能性が示唆されたことは、理学療法を進める上で有意義であると考えられる。

収録刊行物

  • 日本理学療法学術大会

    日本理学療法学術大会 2012(0), 48101700-48101700, 2013

    JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION

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