投球における肘関節角度の違いが投球側肘関節皮膚表面温度に及ぼす影響:予防に関わる運動条件の探索

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抄録

【はじめに、目的】投球障害を予防するために投球制限や投球フォームの指導など様々な取り組みが行われている。しかし、年代別の身体的特徴を把握していない指導者が、行き過ぎた練習内容(Overuse)や過酷な試合日程を組むなど現場での現状はあまり変わっていない。また、投球制限と投球フォームの両者が別々に取り上げられていることも問題の一つとして考える。理学療法士は保存療法を含めて再受傷予防への指導が非常に重要である。肘症状の悪化の原因には様々なものがあると考えられるが、局所の筋運動による局所皮膚表面温度の変化に注目し、これらの関係を分析検討することで、予防に関わる運動条件を探索する。【方法】投手経験のある健康男性4名(平均年齢20.9±1.4歳)を対象とした。身長171.1±3.3cm、体重64.8±10.6kg、経験年数7±3.6年であった。なお、投球時に身体に痛みのある者と喫煙をしている者は除外した。室内環境は、室温25度±0.1、湿度51±0.4%であった。室内環境は、日本サーモロジー学会のテクニカル・ガイドラインを基準とした。投球距離は10mとし、10m先にネット(縦2m、横3m)を設置した。投球は全力投球とし、投球間隔はNPBの規定を採用し15秒に1球、1セット20球の計10セット実施した。セット間隔は90秒以内としてその間に皮膚表面温度を計測した。この測定にはTechnimed社製の非接触型皮膚赤外線体温計を使用した(測定精度:体温36~39度時±0.2度、36度以下か39度以上時±0.3度)。測定部位は両側の上腕動脈(BA)、橈骨動脈(RA)、尺骨動脈(UA)、前腕正中皮静脈(MAV)、橈骨皮静脈(CV)、尺側皮静脈(BV)の計12ヶ所とした。また、投球時に肘関節の屈曲角度を制限するために60度、90度、120度の制限付き装具を作成し投球を行った。球速はブッシュネル社製のスピードガン(測定精度:±時速1km)を使用し1球ごとにネット裏から計測した。解析方法は、投球側と非投球側の皮膚表面温度の平均値の差、投球前と投球中の皮膚表面温度の平均値の差についてT検定を行った。球速では、60度、90度、120度の平均値の差についてT検定を行った(統計処理にはSPSS PASW Statistics18を使用)。【倫理的配慮、説明と同意】群馬パース大学研究倫理審査会で承認を得た。また、被検者に対しては検査測定内容について十分な説明を行い同意書に同意を得た上で実施した。【結果】皮膚表面温度の平均(投球/非投球)は、60度では動脈で投球前32.2/32.3、投球中31.4/31、静脈で投球前31.9/31.8、投球中30.2/30.4。90度では動脈で投球前33/32.8、投球中31.6/30.9、静脈で投球前32.2/32.2、投球中31/31。120度では動脈で投球前33.2/33、投球中32.1/31.5、静脈で投球前32.5/32.5、投球中31.4/31.3であった。各角度での投球側と非投球側に対して対応のないT検定の結果有意差は認めなかった。傾向としては、投球側の動脈は静脈に対して皮膚表面温度はやや高かった。次に、各角度での動脈と静脈に対して平均値を対応のあるT検定の結果、60度では投球側の静脈(P<0.05)に有意差を認め、90度では非投球側の動脈(P<0.05)に有意差を認めた、120度では投球側では動脈(p<0.05)と静脈(p<0.01)、非投球側では動脈(p<0.05)に有意差を認めた。このことから肘関節角度の違いによって皮膚表面温度に差がみられ、肘関節を屈曲角度が大きいほど表面温度が下がる傾向が示させた。また、各セット別にみると投球開始後80~120の間で皮膚表面温度が下がる傾向があり60度では約80球から、90度では約100球から、120度では約120球から一度温度が低くなりその後若干上昇する傾向がみられた。球速の平均は、60度が98.4km/h、90度は101.7km/h、120度は103.8km/hであり有意差は認めなかったが、3群間で一番球速が速かったのは120度であった。【考察】投球開始とともに60度、90度、120度ともに皮膚表面温度が低下した。特に肘関節屈曲120度では投球側と非投球側の動脈と静脈ともに表面温度が低下する傾向が認めた。これは、局所の筋運動が皮膚表面温度にあたえる影響として1要因であることが示唆された。球速に関しては、肘の角度が違う場合でも差は認めなかった。今後は、その要因について分析する必要があり自律神経の影響も含めて検討していく。【理学療法学研究としての意義】日本臨床スポーツ医学会やAmerican Sports Medicine Instituteは投球数の制限を詳細に規定しているが、自覚的な疲労度で決めていることがわかり、生理学的な根拠が示されていなかった。そのため、比較的安価な非接触型赤外線表面体温計を用いて身体的な特徴を示すことができた。今後は症例数を増やすことと、各年代別での検討が必要と考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012(0), 48101896-48101896, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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