歩行中の膝関節角度の測定方法の考案

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抄録

【はじめに、目的】歩行中の膝関節角度の測定は,関節角度計を下肢に装着する方法,マーカーをつけての三次元解析装置による方法など多くの研究がなされている.また一方関節生理学的に,膝関節は大腿骨に対して脛骨が回転しつつ滑ることにより関節運動が生じていることも良く知られている.しかし,歩行中の膝関節角度の従来の測定方法は,膝関節の関節中心は大腿骨の外側上顆にある回転運動とみなしての測定が多く,実際の膝関節の滑りも含めての動きを測定したものになっていない.本研究の目的は,従来の教科書的に理解されている膝関節の歩行中の関節角度を訂正するために,実際の膝関節の滑りの距離も含めての動きを測定する方法を提言するものである.【方法】被験者は3 名であり,2 名は既往歴の訴えがなく被験者1,2 とした.1 名は前十字靭帯損傷の既往があり被験者3 とした.また,歩行は裸足,平地での通常歩行とした.動作解析は基本的な二次元での動作の撮影,画面でのマーカー位置のデジタイズによる方法であるメディカ社製フォームファインダーを使用し,取得したデータは表計算ソフトにより解析した.マーカー位置はP1 からP8 とする8 箇所であり,立位において直線上となるP1(大転子),P2(大腿近位1/4),P3(大腿遠位1/4),P4(大腿骨外側顆遠位端),P5(脛骨近位端),P6(下腿近位1/4),P7(下腿遠位1/4),P8(外果)とし,P1 とP4 間を大腿長,P5 とP8 間を下腿長とした.歩行中は関節に近いP1,P4,P5,P8 のマーカーは皮膚の動きによりずれを生じるため,大腿骨の中央2 箇所,下腿の中央2 箇所のマーカー位置と大腿長と下腿長より,大腿と下腿のなす角度,関節内での大腿骨と脛骨の変位距離を計算した.また,従来の方法で大転子と大腿骨外側顆,外果の3 点のなす角度を計算した.【倫理的配慮、説明と同意】被験者にはあらかじめ実験の目的と方法について説明し,同意書への署名により意思を確認した.なお,実験においてはマークの皮膚への添付以外の侵襲はなく,基本的に無負荷での測定である.【結果】歩行中の膝関節角度は2 回の屈曲伸展をするとされ,踵接地時期での膝伸展,立脚中期での膝屈曲,立脚後期での膝伸展,遊脚期での膝屈曲のそれぞれは数学的には極値と理解できる.被験者1 において極地の4 つの値は従来法で0°,で15.3°,2.5°,57.1°で,本研究方法では0°,17.8°2.5°,66.8°であった.同様に被験者2 の従来法は,0°,9.6°,5.6°,49.8°,本研究方法は,0°,9.1°8.4°,51.6°であった.被験者3 では従来法で0°,9.1°,8.1°,35.3°であり,本研究方法は0°,9.7°,7.8°,38.3°であった.また大腿骨外側顆遠位端と脛骨近位端の最大距離と最小距離の比を距離を計算したところ,被験者1 は8.9,被験者2 は5.1,被験者3 は11.7 となった.また全体の波形を観察すると,被験者3 では立脚中期での膝の屈曲が乏しく,二重膝作用は認められなかった.【考察】今回の測定は膝関節が多軸関節であることを考慮して,関節の動きを回転運動としての角度変化と,すべりのある並進運動としての骨の移動距離の測定を行うものである.結果から特徴的であったのは,被験者3 にいて今回の測定方法では立脚中期において屈曲角度は小さく全体の波形として二重膝作用を認められなかったのに対して,従来の方法の測定では,屈曲角度が大きくなり,二重膝作用を認めた点である.このことは,従来から多く使わせている3 点のマーカーの成す角を関節角度とする方法では,関節内運動を考慮しておらず,骨のすべりによる変化も角度変化として内在してしまっていることになる.今回の測定方法は大腿と下腿の成す角度と骨の距離間を測定し,回転運動と並進運動の両方の変数を示すことができると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究は,歩行中の膝の動き一軸関節としてではなく,多軸関節的に捉えることができた.変形性膝関節症では大腿骨と脛骨の関節面の磨耗により,接触状態が破綻し障害を引き起こすが,関節の前額面での動揺も原因となるが前後方向での考察されてこなかった.また前十字靭帯損傷において,下腿の大腿骨に対して前方に移動する現象は前方引き出し兆候としてよく知られ,その動揺性は静的にはKnee Arthrometerなどでの定量的な測定方法が確立しているが,動的な場合での測定方法は経験的な観察に頼らざるを得なかった.本研究の手法では,体表面から大腿骨と下腿の動きを間接的ではあるが定量的に測定する事が可能であり,この手法が確立すれば,変形性膝関節症や十字靭帯損傷の場合の治療プログラムの参考資料として,また予防的な発症リスクについての検討も可能になるものと考えられ,これらの点は従来にない卓越した成果になる事が期待できる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012(0), 48101938-48101938, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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