持久運動時の高濃度酸素吸入が酸化ストレスにおよぼす影響

DOI
  • 菊本 東陽
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 丸岡 弘
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 伊藤 俊一
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科
  • 星 文彦
    埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科

抄録

【目的】 活性酸素・フリーラジカルは生命維持に不可欠なものであり、肺から取り込んだ酸素はミトコンドリア伝達系によって、何度か活性酸素・フリーラジカルに変化しながら水になる。しかし、すべての活性酸素・フリーラジカルが水になる訳ではなく、余剰分は細胞や組織に損傷を与える。それを防ぐために各組織に抗酸化酵素(抗酸化能)が存在するが、この抗酸化能の低下や活性酸素(酸化ストレス度)過多は老化や生活習慣病などの原因となることが報告されている。また、身体活動量の増加や有酸素運動(持久運動)の実施は、生活習慣病の発生を予防する効果があり、健康づくりの重要な要素であるとして推奨され、持久運動は酸化ストレスに好影響を与えるものと推察される。本研究の目的は、長期間の持久運動が酸化ストレスにおよぼす影響とその際の高濃度酸素吸入による酸化ストレス抑制効果について検討することである。【方法】 対象は、Wistar系雄性ラット(4週齢)20匹とし、無作為にコントロール群(CON群:n=10)と高濃度酸素吸入群(O2群:n=10)の2群に区分した。持久的運動装置は、動物用トレッドミル(TM)を使用した。運動条件は両群共にTMの運動強度を速度20m/min、傾斜10度に設定し、1日1回30分、週3回の頻度で連続4週間走行させた。O2群に対しては、高濃度酸素発生装置(IST社製酸素発生装置NOZOMI OG-101、28% O2、3L/min)を接続した麻酔ボックス(サンプラテック社製MAB-1)内にラットを放し、TM走行前の30分間高濃度酸素を吸入させた。測定は運動期間前後にTM走行時間、酸化ストレス防御系の変化について実施した。TM走行時間の変化量の測定は、TMの運動強度を速度25m/min、傾斜20度とし、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の間隔が5秒以内となった時点とした。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製 FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレスの大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した。なお、d-ROMとBAPの測定には、尾静脈を一部切開し、採血を行い、遠心分離後の血漿を用いた。本研究で得られた数値は平均値±標準偏差で表し、有意差の検定はMann-Whitney U検定を行い有意水準5%で処理した。【説明と同意】 本研究は本大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号8)。【結果】 (1)TM走行時間の変化:TM走行時間について、TM運動開始前はO2群:940.2±302.1秒、CON群:894.3±243.0秒、TM運動終了後はO2群:1729.5±296.9秒、CON群:1694.3±382.2秒であり、平均変化量はO2群:789.3±446.9秒、CON群:800.0±396.6秒であった。両群ともにTM運動前後の比較で有意なTM走行時間の延長を認めた(p<0.01)が、平均変化量の両群間の比較では有意差を認めなかった。(2)酸化ストレス防御系の変化:d-ROMにおいて、TM運動開始前はO2群:286.5±30.1、CON群:254.5±14.5、TM運動終了後はO2群:247.9±22.3、CON群:287.9±29.4、平均変化量はO2群:-38.6±35.6、CON群:33.4±29.6であった。BAPにおいて、TM運動開始前はO2群:2884.8±169.9、CON群:2794.3±152.1、TM運動終了後はO2群:2927.9±933.9、CON群:2759.7±304.7、平均変化量はO2群:43.1±852.3、CON群:-34.6±328.6であった。RB比において、TM運動開始前はO2群:10.1±1.0、CON群:11.0±1.0、TM運動終了後はO2群:12.1±5.0、CON群:9.8±2.0、平均変化量はO2群:2.0±4.7、CON群:-1.3±2.1であった。いずれの値もTM走行前後の比較および平均変化量の両群間の比較では有意差を認めなかった(単位はいずれもU.CARR)。【考察】 本研究において、長期間の持久運動は酸化ストレス防御系に影響しないことが示唆された。また、高濃度酸素吸入は、運動や長時間運動時の身体ストレスを軽減し、疲労回復や集中力を向上する効果のあることが指摘されている。しかし、本研究のTM開始前の高濃度酸素吸入の検討では、ラット個体間のばらつきが大きく、長期間の持久的運動の酸化ストレス防御系への影響を認めることができなかった。この原因として酸素濃度、暴露方法(暴露時間、タイミング)などの条件設定の問題が推察され、今後検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 理学療法の対象者は、その疾病や障害特性により、心肺持久力や活動性が低下している場合が多く、通常の運動負荷であっても身体ストレスは容易に上昇することが推察される。したがって本研究で示した、長期間の持久運動負荷による酸化ストレスへの影響や酸化ストレスを抑制する方法の検討は低体力者に対するより効果的な運動強度を設定する上で有意義と考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Aa0122-Aa0122, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572033408
  • NII論文ID
    130004692251
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0122.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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