ホールドリラックスストレッチングが腓腹筋筋腱複合体のスティフネスに及ぼす即時効果

DOI
  • 中村 雅俊
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 日本学術振興会特別研究員
  • 池添 冬芽
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 徳川 貴大
    京都大学医学部人間健康科学科理学療法学専攻
  • 市橋 則明
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

Bibliographic Information

Other Title
  • ―スタティックストレッチングとの比較―

Abstract

【はじめに、目的】 ストレッチングは関節可動域(Range of Motion:以後ROM) の改善や筋腱複合体(Muscle-Tendon Unit:以後MTU)全体の柔軟性あるいは筋の柔軟性を増加させるために用いられている.近年,我々はスタティックストレッチング(Static Stretching:以後SS)がMTU全体および筋のスティフネスを減少させるためには最低2分間のSS施行時間が必要であることを明らかにした(体力科学59巻6号).臨床現場ではSSに加えホールドリラックスストレッチング(Hold Relax Stretching:以後HRS)もよく用いられている.HRSは対象筋を痛みのない位置まで最大に伸張した肢位でSSを行った直後に対象筋の等尺性収縮を行い,その後さらにSSを行うストレッチング法である.HRSがROMに与える即時効果を検討した報告はあるが,MTU全体や筋のスティフネスに及ぼす即時効果やSSとの違いを報告した研究は見当たらない.本研究の目的は,2分間のHRSがMTU全体や筋のスティフネスに与える即時効果をSSの即時効果と比較検討することである.【方法】 対象は下肢に明らかな整形外科的疾患を有さない健常成人男性14名(年齢21.9±1.1歳,身長171.0±3.7cm,体重63.5±8.9kg)とした.腹臥位・膝関節完全伸展位で足関節を等速性筋力測定装置のフットプレートに固定して他動的に足関節を背屈させた時の足関節底屈方向に生じる受動的トルクをHRSおよびSS介入前後に測定した.解析には全ての被験者が可能であった足関節背屈0°から背屈30°の値を使用し,受動的トルクの変化量を角度の変化量で除した値をMTU全体のスティフネスと定義した.また同時に超音波診断装置を用いて,足関節背屈0°から背屈30°まで背屈した時における腓腹筋の筋腱移行部(Muscle Tendon Junction:以下MTJ)の移動量を測定した.受動的トルクの変化量をMTJの移動量で除することで筋のスティフネスを算出した.スティフネスは一般的に硬さを表す指標であり,この値が小さいほど柔軟性が高いことを意味する.なお,測定中は足関節周囲筋(内・外側腓腹筋とヒラメ筋,前脛骨筋)の表面筋電図により,筋の伸張反射や痛みによる防御性収縮が起きていないことを確認しながら行った.HRSは上記の測定と同様の装置を用い,腹臥位・膝関節完全伸展位で対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で15秒間背屈方向へSSを行った直後に5秒間底屈方向に最大等尺性収縮を行い,その後10秒間同じ角度で背屈方向へSSを行った後,底屈30°まで戻すというHRSを4セット,計2分間施行した(HRS群).SSはHRSと同様の足関節背屈角度で30秒間SSを行った後,底屈30°まで戻すというSSを4セット,計2分間施行した(SS群).なお,HRSとSSは1週間から2週間の間隔をあけて利き脚(ボールを蹴る側)で施行した.統計学的処理は各群におけるストレッチング前後の比較をWilcoxon検定,ストレッチング前およびストレッチング前後の変化率の群間比較をMann-Whitney検定を用いて行った.有意水準は5%未満とした. 【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を説明し,研究に参加することの同意を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得た.【結果】 両群ともにストレッチング後にMTU全体のスティフネスは有意な減少がみられた(HRS群:介入前1.49±0.22Nm/deg,介入後1.40±0.21Nm/deg,SS群:介入前1.37±0.16Nm/deg,介入後1.08±0.19Nm/deg).介入前後の変化率ではSS群はHRS群よりも有意に大きな値を示した(HRS群:6.2±7.6%,SS群:21.1±5.5%).また筋のスティフネスは両群ともストレッチング後に有意に減少し(HRS群:介入前47.9±17.8Nm/cm,介入後38.8±13.5Nm/cm,SS群:介入前46.0±21.5Nm/cm,介入後32.1±17.1Nm/cm),SS群はHRS群よりも有意に大きな変化率を示した(HRS群:17.1±13.1%,SS群:32.7±11.6%).なお,ストレッチング前におけるMTU全体と筋のスティフネス値は両群間に有意な差は認められなかった.なお,全ての受動的トルクや背屈ROM測定中には最大収縮の5%以上の高い筋活動は認められなかった. 【考察】 本研究の結果,HRS,SSともにストレッチング後にMTU全体と筋のスティフネスは減少し,その変化率を比較するとHRSよりSSの方が大きな値を示した.これらのことからHRSとSSはともにスティフネスを減少させる効果があるが,その効果はHRSよりもSSの方が高いことが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究よりスティフネスの減少を目的としてストレッチングを施行する場合にはHRSよりSSが推奨されることが示唆された.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572069632
  • NII Article ID
    130004692264
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.aa0135.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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