健常成人における歩行様式の違いによる脳内血液酸素動態の検討  [in Japanese]

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【はじめに、目的】 正常運動発達には、座位から膝立ち、片膝立ち、立位の段階があるが、大川ら(1988)は、脳卒中患者では立位の歩行に比べ膝歩きは難易度が高いと報告している。そのため脳卒中患者に対する理学療法として、立位だけでなく膝立ち位での課題も練習されている。Cipriani(1995)や相本(2011)は、後進歩行や膝歩きが身体機能に与える運動学的影響を検討している。しかし、後進歩行や膝歩き時の脳内動態をMiyai(2001)が提唱する近赤外分光法(Functional Near-Infrared Spectroscopy;fNIRS)で可視化を試みた報告はなく、健常成人を対象とした歩行様式の差異による脳活動の報告も見当たらない。健常成人を対象に、トレッドミル上での立位、膝立ち位における前進、後進歩行時の脳内血液酸素動態が異なるかどうかをfNIRSにて検討することを目的とした。【方法】 対象はT病院に所属する脳脊髄疾患および整形外科疾患の既往のない右利きの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士70人とした。課題はトレッドミル上で立位および膝立ち位の前進歩行(前進)、後進歩行(後進)の4課題とした。被険者間で同等の負荷量となるよう、被験者ごとに各課題2回の10m快適歩行速度の平均値より時速を算出し、その1/2をトレッドミルの設定速度とした。脳内血液酸素動態の測定は、島津製作所製の近赤外光脳機能イメージング装置FOIRE-3000を用い、Haradaらの研究(2009)に準じ、全42チャンネルで計測した。手順は20秒休息、60秒課題、20秒休息の1施行を連続3施行測定し、課題順序はくじ引きにて順不同とした。fNIRSデータの解析には酸素化ヘモグロビン値を用い、3施行を加算平均し、補正と正規化を行った。課題開始後20秒から60秒の平均値から課題開始前10秒間の平均値を減じた値を賦活量とした。42チャンネルを12領域に分け、各領域の平均値を算出した。統計学的検討はSPSS16.0Jを用い、安静に対する課題時の増減の比率の検討にカイ2乗検定、賦活量の各領域における課題間の比較に反復のある一元配置分散分析、多重比較にはBonferroniを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、筑波大学大学院人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した。T病院の職員に研究内容を説明し、文章のもとに十分な説明を行った上で参加同意の署名を得て実施した。【結果】 対象は、平均年齢25.2歳±2.4歳、男性35人であった。歩行速度は立位前進で4.9±0.5km/h、立位後進が4.0±0.7km/h、膝立ち位前進2.4±0.4km/h、膝立ち位後進1.6±0.4km/hであった。脳内血液酸素動態測定において、補足運動野は、膝立ち位後進で増加する比率が高く(χ2=4.6、<i>p</i><0.05)、左体性感覚野は膝立ち位前進、後進で増加する比率が高かった(各χ2=5.7、χ2=6.9、各<i>p</i><0.05、<i>p</i><0.01)。内側体性感覚野は、膝立ち位前進と後進で増加する比率が高く(各χ2=14.6、χ2=12.9、全て<i>p</i><0.01)、右体性感覚野は、立位後進、膝立ち位前進と後進で増加する比率が高かった(各χ2=4.6、χ2=6.9、χ2=8.2、各<i>p</i><0.05、<i>p</i><0.01、<i>p</i><0.01)。また、右前頭前野は膝立ち位の前進に比べ後進で増加し、右運動前野は立位前進に比べ後進で増加した(<i>p</i><0.05)。補足運動野は立位、膝立ち位ともに前進に比べ後進で増加した(<i>p</i><0.01)。左感覚運動関連領野では後進において立位よりも膝立ち位で増加し(<i>p</i><0.01)、左体性感覚野は前進、後進ともに立位に比べ膝立ち位で増加した(各<i>p</i><0.05、<i>p</i><0.01)。【考察】 健常成人を対象としたトレッドミル上の4つの異なる歩行時のfNIRSによる脳内血液酸素動態は異なることが確認された。すなわち、前進に比べ後進歩行で右前頭前野と右運動前野、補足運動野領域が、立位より膝立ち位の歩行の方が、左感覚運動関連領野および左体性感覚野が賦活されることが示唆された。前頭前野は注意を集中する活動状態の運動と行為の調整に関与し、運動前野と補足運動野は、運動学習時に高い活動を示すと述べられている。本研究の前進と後進歩行の比較から、後進は前進歩行に比べ注意を要し、調節機能が必要となるため、それに関与する前頭前野や運動前野、補足運動野の活動が必要となり賦活増加を認めたと考える。また立位に比べ膝立ち位は、床との接触面積が多く、脊柱起立筋や大殿筋の筋活動が高い動作と言われている(木下、2006)。感覚運動関連領野や体性感覚野が賦活した今回の結果は、木下の報告を支持する結果と考える。【理学療法学研究としての意義】 各歩行様式による脳内血液酸素動態の差異を活かし、脳卒中患者の脳の損傷部位や障害に応じた歩行課題を選択することで、脳病態生理の根拠に基づいた効率的な神経理学療法を行える可能性が示唆された。

Journal

  • Congress of the Japanese Physical Therapy Association

    Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011(0), Aa0886-Aa0886, 2012

    JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION

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