喫煙習慣と運動による肺局所の酸化ストレス反応に関する研究

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抄録

【はじめに、目的】　酸化ストレスとは，活性酸素の産生と抗酸化力のバランスが破綻し，活性酸素の産生過剰に傾いた状態である．近年，様々な疾患の発症や進行に酸化ストレスが関与していることが明らかになっており，注目されている．呼気凝縮液（exhaled breath condensate：EBC）は，呼気を急速に冷却・凝集したものであり，各種炎症性マーカーや酸化ストレスマーカーをモニタリングし，病態を把握するための手段として用いられている． EBC中の酸化ストレスマーカーとして過酸化水素濃度がよく用いられている．喫煙者では肺の酸化ストレスが増大しており，EBC中の過酸化水素濃度は非喫煙者に比べて高値を示す．30秒間全力ペダリングを行うウインゲート無酸素性テストによって，EBC中の過酸化水素濃度は，若年喫煙者のみ増大したと報告したが（Nicotine Tob Res. in press），他の運動様式に関しては報告がない．そこで，生活習慣病予防や健康増進を目的に推奨されている中強度運動による肺局所の酸化ストレス反応が，若年の喫煙者と非喫煙者で異なるかを明らかにする．【方法】　若年喫煙者，非喫煙者それぞれ10名（年齢 27.4 ± 4.4, 26.7 ± 3.1 歳，身長 173.5 ± 6.0, 173.2 ± 7.1 cm，体重 70.2 ± 8.9, 66.4 ± 4.8 kg）を対象とした． 運動負荷は自転車エルゴメータ（Aerobic Exercise Ergometer，Combi）を用いて，60％の運動強度にて30分間の定常運動負荷を行った．呼気凝縮液採取装置（エコスクリーン：Jaeger）を用いて，運動負荷前後15分間のEBCを採取した．吸光度計（Free Radical Elective Evaluater ：Diacron）を用いて，EBC中の過酸化水素濃度，抗酸化力を測定した． 換気諸量（一回換気量，分時換気量，呼吸数，酸素摂取量，呼気流速）は測定開始から終了までの間，それぞれ呼気ガス分析装置（AERO MONITOR AE-280S：ミナト医科学）を用いて測定した．安静時におけるEBC中の酸化ストレスマーカーの2群間での比較は，対応のないt検定を用いた． EBC中の酸化ストレスマーカーの経時的変化の2群間での比較は2元配置分散分析を用いた． なお，統計処理は統計用ソフトウェア（SPSS 12.0J for Windows：SPSS Japan Inc.）を使用し，有意水準は5%未満とした．【倫理的配慮、説明と同意】　測定の趣旨・方法について口頭および書面にて説明を行い，同意を得た．本研究は広島大学保健学研究科心身機能生活制御科学講座研究倫理委員会（承認番号：1047）の承諾を得て実施した．【結果】　安静時におけるEBC中過酸化水素濃度（3.2±1.3 vs. 2.2±1.0μmol/L；p＝0.058），抗酸化力（226.1±22.2 vs. 226.9±13.1μmol/L；p＝0.928）は喫煙者と非喫煙者との間で，有意な差を認めなかった． 喫煙の有無と時間を変動要因とした2元配置分散分析において，過酸化水素濃度（F＝2.407，p＝0.138），および抗酸化力（F=0.005，p＝0.943）は有意な交互作用を認めなかった．運動負荷後の一回換気量，分時換気量，酸素摂取量は運動負荷前に比べて有意に増加した．【考察】　安静時のEBC中過酸化水素濃度が喫煙者と非喫煙者にて有意な差を認めなかった理由としては，先行研究に比べて，喫煙歴が短いことが影響していると考えられる．30分間の中強度運動によるEBC中の過酸化水素濃度変化が若年喫煙者と非喫煙者にて有意な差を認めなかった理由としては，ウインゲート無酸素性テストの全力ペダリング運動に比べて低強度の運動であったことが影響していると考えられる．【理学療法学研究としての意義】　30秒間の全力ペダリングによって，喫煙者のみ肺の酸化ストレス反応は増大したとの報告がある．本研究により生活習慣病予防や健康増進に効果的である中強度運動による肺の酸化ストレス反応は，全力ペダリング運動に比べて，喫煙習慣の影響を受けにくいことが明らかとなった．生活習慣病患者の運動療法をはじめ，運動療法を実施していくうえで，重要な知見であると思われる．

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab0679-Ab0679, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572652672
  • NII論文ID
    130004692447
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab0679.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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