移植した間葉系幹細胞の細胞分化に影響する損傷骨格筋と正常骨格筋の生体内環境の違い

DOI
  • 平山 由梨
    名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻
  • 蜷川 菜々
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 小林 麻美
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 川端 佑果
    名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻
  • 木全 弘治
    愛知医科大学医学部先端医学・医療研究拠点
  • 鳥橋 茂子
    名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻

抄録

【はじめに、目的】 間葉系幹細胞(MSCs)は、筋・骨・脂肪細胞などの間葉系細胞へと分化する能力を持ち、MSCsを損傷骨格筋へ移植すると骨格筋に分化するとされている。当研究室ではES細胞からMSCsを作製する方法を確立した(Ninagawa et al. 2011)。さらに、このMSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植すると移植1,2,3週間後に骨格筋の再生過程でMSCsが骨格筋に分化していくことを確認し、細胞移植により組織学的および機能的に治癒が促進されることが明らかとなった(磯部ら、2010)。しかし、このMSCsをマウスの正常骨格筋へ移植したところ、移植1週間後にES細胞由来MSCsは骨格筋には分化せず未分化な状態でとどまっていた。従って、損傷骨格筋と正常骨格筋の生体内微小環境の違いにより移植されたMSCsの分化傾向が異なることが考えられる。本研究では、損傷骨格筋と正常骨格筋における生体内環境の違いを明らかにし、MSCsが骨格筋へ分化するために必須である微小環境について解析することを目的とする。また、細胞外マトリクス(ECM)には、基底膜に代表されるような一定の構造を呈し組織の骨格となるものと、細胞を囲みダイナミックに変化するものがある。後者は細胞の増殖や移動、分化の制御に深く関与していると報告されている。そこで、いくつかのECMに着目してマウスの損傷骨格筋と正常骨格筋における発現の相違を観察した。【方法】 SCIDマウス(8週齢、雌)の前脛骨筋を鉗子により1分間一定の力で圧迫することで挫滅損傷モデルを作成した。正常なマウスおよび挫滅損傷後24・48時間,4日,1・3・5週間後のマウスを4%パラフォルムアルデヒド(PFA)で環流固定した後、それぞれの前脛骨筋を採取した。その後、厚さ6µmの凍結切片を作成し、HE染色と、抗ECM抗体の免疫蛍光染色により組織学的に骨格筋再生過程におけるECMを中心とした微小環境の変化を観察した。【倫理的配慮】 名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 正常骨格筋にES細胞由来のMSCsを移植したところ、先行研究と同様に、骨格筋に分化せず未分化な状態でとどまっていることが確認できた。ECMは、損傷骨格筋と正常骨格筋において発現量に相違がみられた。基底膜を形成するlamininは損傷後早期に発現量が減少し、骨格筋の再生とともに発現量が回復していった。また、白血球・リンパ球のマーカーであるCD44は損傷後早期に発現量が増加し、その後、炎症反応が減弱していくに従って発現量の低下が観察された。またこの他のECMは種類によって発現パターンがそれぞれ異なっていた。【考察】 正常骨格筋と損傷骨格筋において細胞外マトリクスの発現量と発現パターンに違いが見られた。従ってこれらが骨格筋損傷と再生、さらには移植細胞の分化に関与している可能性が高い。今後、ECM発現量の推移を定量化し、in vitroでこれらのECMがMSCsの分化や増殖に及ぼす影響を解析する。また、ECMのノックアウトマウスを用いてin vivoでの研究も進める。【理学療法学研究としての意義】 将来、骨格筋の再生医療が普及すればこれに対する理学療法的アプローチが必要になる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ab1107-Ab1107, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205574054144
  • NII論文ID
    130004692531
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ab1107.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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