加齢による筋硬度の変化に影響を及ぼしている因子は何か?

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抄録

【はじめに】 近年、我々は若年者と比較して高齢者では大腿四頭筋を収縮させたときの筋硬度が低く、この加齢による筋硬度の低下は素早く立ち座り動作を行う能力に影響を及ぼしていることを報告した(Geriatr Gerontol Int,2011)。しかし、この加齢による筋硬度の変化はどのような身体因子と関連しているのかについては報告がなく、筋硬度といった筋特性を改善する対策については不明であるのが現状である。そこで本研究は若年女性および高齢女性の下腿三頭筋の筋硬度を評価し、加齢による筋硬度の変化はどのような身体因子と関連しているかについて明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常な施設入所高齢女性17名(年齢86.0±6.7歳)および健常若年女性20名(年齢21.1±1.1歳)とした。筋硬度の評価は弾力評価装置(テック技販製EED-5010C)を用いて、右側の下腿三頭筋を一定圧迫力(10N)で押したときの最大貫入距離(以下、変位距離)を測定した。この変位距離はその値が大きいほど筋組織が軟らかいことを示す。また、組織を圧迫していくときと除圧していくときの2本の応力-変位距離曲線(ヒステリシス曲線)の曲線下面積(Nmm)の差(以下、ヒステリシス差)も求めた。このヒステリシス差はその値が少ないほど筋組織の反発力が大きく、圧迫によって凹んだ筋組織が元の状態に戻る復元能力に優れていることを示す。筋硬度の評価は安静時および下腿三頭筋の等尺性収縮時の2条件で行った。測定肢位は膝関節伸展・足関節底屈30°位とした。身体因子の評価として、超音波診断装置を用いて右側の腓腹筋とヒラメ筋をあわせた筋厚および皮下脂肪厚を測定し、さらに得られた超音波画像より腓腹筋の筋輝度の平均値を算出した。なお、筋輝度は高いほど骨格筋内の非収縮組織(脂肪や結合組織)が多いことを示す。多周波数インピーダンス計を用いて、身体組成(体脂肪量、基礎代謝量、水分量等)の評価を行った。また血圧脈波検査装置を用いて、心血管機能(脈波伝播速度、心拍出量等)を評価した。加齢による筋硬度の変化を分析するために、マンホイットニー検定を用いて若年者と高齢者における安静時と収縮時の筋硬度、安静時に対する収縮時の筋硬度の変化率(安静時-収縮時/安静時×100)を比較した。また、各項目間の関連について分析するためpearsonの相関係数を算出し、有意性の検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者に本研究の十分な説明を行い、同意を得た。なお、本研究は本学の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 下腿三頭筋に圧迫力を加えたときの変位距離は安静時が若年者10.6±0.6mm、高齢者11.5±1.4mm、収縮時が若年者9.5±0.8mm、高齢者10.8±1.4mmであり、安静時・収縮時とも高齢者のほうが若年者より有意に大きかった。また変位距離の収縮時変化率は高齢者のほうが若年者より有意に低い値を示した。ヒステリシス差は安静時、収縮時ともに若年者と比較して高齢者では有意に大きい値を示した。 高齢者における筋硬度と身体因子との関連について、変位距離の収縮時変化率は筋輝度とのみ有意な相関が認められた(r=-0.52)。また、安静時のヒステリシス差は心拍出量とのみ有意な相関が認められ(r=-0.59)、心拍出量が少ないほど加圧時と除圧時との差が大きかった。【考察】 本研究の結果、圧迫力を加えたときの変位距離は安静時・収縮時とも高齢者のほうが若年者より大きく、また収縮時変化率は高齢者のほうが若年者より低かった。このことから、高齢者では若年者と比較して筋を押したときの筋硬度が低く、また収縮時に筋内圧を高められないことが示唆された。ヒステリシス差は高齢者で大きかったことから、加齢により筋が圧迫されて変形した後の「戻り」が悪くなる、すなわち筋組織の復元力が悪くなることが確認された。高齢者の筋硬度と身体因子の関連について、変位距離の収縮時変化率は筋輝度と関連がみられた。骨格筋内の脂肪や結合組織といった非収縮組織が多いと、超音波画像では高輝度にうつる。これらのことから、高齢者が筋収縮時に筋内圧を高められないことは加齢による筋内の非収縮組織の増加が関連していると考えられた。さらに、ヒステリシス差は心拍出量とのみ関連が認められたことから、血行動態によっても筋組織の復元力は変化することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今回、高齢者における下腿三頭筋の筋硬度に関連する因子を検討した結果、加齢による筋硬度の変化には筋内の非収縮組織の増加や血行動態が影響していることが示唆された。本研究によって得られた基礎的知見は、高齢者の筋特性を改善するための運動療法を開発するうえでの一助になると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011(0), Ae0099-Ae0099, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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