人工股関節全置換後1年以上経過した患者の健康関連QOLに与える影響因子

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抄録

【はじめに、目的】 近年、人工股関節全置換術(以下、THA)が施行される年齢層は広がっており、術後も高い活動性を求め、長期的な成績に関心が高い患者が増えている。長期的な成績は脱臼、感染、再置換またはROMや筋力といった手術、身体機能面のみでなく、ADLやQOLが重要視されてきており、患者自身による主観的な評価が好ましいとされている。本研究の目的はTHA後1年以上経過した患者の健康関連QOLを明らかにして、影響を与える要因を検討することである。【方法】 対象はTHAを施行した変形性股関節症女性患者40症例。全例初回手術である。平均年齢は62.6±6.0歳(平均±標準偏差)、身長は152.5±6.0cm、体重は55.8±7.2kgであった。THA後のリハビリテーションは当院クリニカルパスに沿って実施した。退院後、当院での外来理学療法は実施せず、整形外科の外来受診時(術後1~2年)に評価を行った 。健康関連QOLはSF-36v2™日本語版(以下、SF-36)を使用し、国民標準値に基づいたスコアリング方法(NBS法)を用いた。筋力は股関節外転筋および伸展筋をハンドヘルドダイナモメータにて測定し、体重で除した値を筋力値とした。まずTHA術前後でのSF-36の変化を比較検討し、次に術後1年以上経過した時点の身体的QOL、精神的QOLを最も反映している身体機能(以下PF)と心の健康(以下MH)に影響を及ぼす要因として筋力や合併症および環境因子を調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 各対象者には、本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し、研究への参加に対する同意を得た。【結果】 全体のSF-36の8つの下位尺度はPF (術前/術後1年)22.2±11.8/43.4±11.1、日常役割機能(身体) 32.5±12.4/42.9±11.4、体の痛み 33.5±6.0/47.4±9.7、全体的健康感 44.3±9.4/50.0±9.7、活力43.9±8.7/52.6±7.9、社会的役割 35.6±12.9/47.4±10.2、日常役割機能(精神)33.6±13.9/43.6±12.5、MH 45.5±9.5/52.0±9.1であった。年代別にみると、全年代術前後で大きく改善するが、60歳以降は術後1年以上経っても国民標準値を下回っていた。その傾向は身体的QOLでより強く見られた。また伸展筋力は60歳以下で身体的・精神的QOLと相関がみられた。他関節疾患があると身体的QOLは低かったが、同居人の有無によって差はなかった。若年は他疾患有無と関連なかったが、70歳上ではほぼ全例が様々な合併症を抱えていた。【考察】 年齢に関係はなく術後1年でQOLは改善していたが、高齢層では国民標準値には至っていなかった。その傾向が精神的QOLよりも身体的QOLで強かったことは、脱臼への不安や活動量制限によってADLは低下しているものの、術後1年が経過して自分なりのライフスタイルを確立し、障害の受容に至っていると考えた。また健康関連QOLに与える影響因子は年齢層によって異なっていた。若年層では抗重力筋である股関節伸展筋といった身体機能面が直接影響しているが、高齢層では身体機能面のみでなく、他関節疾患、合併症、さらには環境因子など複雑に影響し合いと特有の障害像を形成していると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、THA後の長期的な健康関連QOLは年齢に応じて影響因子が違うことが示されたことから、THA術後患者に対するアプローチに対する一助となる可能性があり、理学療法研究としての意義はあると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ca0910-Ca0910, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549255808
  • NII論文ID
    130004692957
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ca0910.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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