腰椎分離症者の体幹後屈運動戦略~身体の駆動特性に着目して~

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著者

    • 井原 拓哉
    • 特定医療法人玄真堂川嶌整形外科病院リハビリテーション科
    • 阿南 雅也
    • 広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座
    • 新小田 幸一
    • 広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座

抄録

【はじめに、目的】 腰椎分離症は,青年期のスポーツ選手に多い腰椎椎弓の関節突起間部の疲労骨折であり,先天的素因に力学的,慢性的な運動負荷が加わった結果生じるとされている.この力学的,慢性的な運動負荷が生じる運動の一つとして,体幹の後屈運動が挙げられている.腰椎分離症者では,50%以上の症例には発症後も腰痛が残存し,腰椎分離・すべり症への進展や,身体パフォーマンスが低下することが報告されており,これには体幹後屈運動中の力学的ストレスの関与が疑われる.しかし,我々が渉猟した限り,後屈運動中に生じる腰部への力学的ストレスを研究した報告は見当たらないのが現状である.腰椎分離症に対する理学療法アプローチの方針決定には,後屈運動中に腰椎分離症者の腰部に生じる力学的ストレスと後屈運動戦略を明らかにすることが必要であると考えられる.そこで本研究は,体幹の後屈運動中に腰部に生じる力学的ストレスと後屈運動戦略を理解して,腰椎分離症者に対する理学療法アプロ―チの方針決定の一助とすることを目的として行った.【方法】 被験者は過去1年以上前に腰椎分離症と診断を受けた若年腰椎分離症男性10人(年齢:21.9±1.9歳)の分離群,および分離群と同等の属性をもち,下肢や体幹に入院・加療を必要とする整形外科的疾患の既往のない男性10人(年齢:22.5±2.3歳)の対照群であった.課題動作は100beat/minに設定したメトロノームに合わせた立位での体幹後屈運動とした.立位体幹後屈運動の運動学データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し,赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システムVicon MX(Vicon社製)を用いて計測した.同時に運動力学データは床反力計(テック技販社製)2基にて取得した.得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を使用して8セグメントリンクモデルを作成し,運動所要時間,体幹セグメント後傾角度,関節角度,運動開始タイミング,モーメントパワー(以下,パワー)を算出した.関節角度は課題動作開始時点からの変化量を算出し,変化量の20%に達するまでに要した時間を運動所要時間で正規化した値を運動開始タイミングとした.パワーは体幹後屈運動において身体の駆動に関与すると考えられる足関節背屈筋,膝関節屈曲筋,股関節伸展筋,腰部伸展筋の求心性収縮を示す正のパワーの積分値とその合計を算出した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 14.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得た.また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した.【結果】 運動所要時間は,両群間には有意な差が認められなかった.体幹セグメントの後傾角度は分離群が対照群と比較して有意に低値を示した(p<0.05).各関節の角度変化量は腰部のみに有意な差が認められ,分離群が対照群と比較して有意に低値を示した(p<0.01).また,運動開始タイミングは腰部では両群間に有意な差は認められなかったが,膝関節において有意に高値を示した(p<0.05).正のパワーの積分値においては,腰部では両群間に有意な差は認められなかったが,膝関節と合計は分離群が対照群と比較して有意に低値を示した(p<0.05). 【考察】 本研究の結果から,分離群は対照群と同等の動作時間を要したにもかかわらず,体幹の後傾角度が小さく腰部伸展の角度変化量が小さかったため,分離群では後屈運動のパフォーマンスが低下していると考えられた.後屈運動の戦略に注目すると,正のパワーの積分値は腰部では両群間に有意な差はないが,膝関節と合計では分離群が低値をし,腰部の仕事量が相対的に増大していると考えられた.さらに運動開始タイミングにおいても,腰部では有意な差は認められないが分離群では膝関節の運動開始が遅く,身体の駆動のために腰部を優位に利用していることが示された.体幹後屈運動における腰部の過用は,腰背筋に過剰な収縮を要し,腰部骨組織への圧負荷を増大すると考えられる.したがって腰椎分離症者では,後屈運動において腰部を優位に利用することが発症後の疼痛残存や分離・すべり症への進展と関与している可能性があり,理学療法ではこの運動戦略の改善を図っていく必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,腰椎分離症者は体幹後屈運動において,身体の駆動の為に腰部を優位に利用していることを示したこと,腰椎分離症の発症後の疼痛の残存や分離・すべり症への進展を予防・軽減するために,後屈運動戦略の改善を図る理学療法を実施する必要性を示したことに意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011(0), Cb0497-Cb0497, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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