個別運動と集団運動が運動時の心理状態に与える影響

DOI
  • 小橋 康昌
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 佐山 絵梨
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科
  • 河辺 信秀
    茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─フロー理論に基づく心理状態の評価─

抄録

【目的】 ホームエクササイズとして行う非監視型の個別運動は障害予防などに有用であるが,集団運動よりも運動の実施率が低くなり易い.一方で,集団運動は,高齢者の精神機能賦活に効果的であるとの報告が多い.集団運動によって健康関連QOLが改善するとされており,高齢者の社会的孤独感の解消に期待できる.集団運動は精神的健康度の改善に効果的であり,個別運動と比較して運動実施率が高い.このような集団運動の効果には運動実施時の心理状態の違いが影響を及ぼしていると推測されている.しかし,運動を行った際のどのような心理状態の変化がこれらの改善に影響を及ぼすのか検討した調査はみられない.物事に取り組む際の人の心理状態を捉える概念の一つにフロー理論がある.フロー状態は行為者が感じる挑戦する物事のレベル,挑戦する物事に対する自らの能力レベルが高い状態にあり,深い満足感が得られる心理状態である.フロー理論では,何らかの行為を実施している時の経験をフロー・アパシー・リラックス・不安の4つの心理状態に分類して捉える.本研究では,このフロー理論による心理状態の評価を用いて,精神的健康度を改善する効果が高い集団運動の運動時の心理状態が個別運動と比較してどのような点で有利であるのか明確にすることを目的に研究を行った.【方法】 対象は本校理学療法学科3年生26名であった.性別は男性17名,女性9名,年齢は21.2±0.4歳であった.対象を個別群13名,集団群13名にランダムに割り付けた.2群とも運動内容はジャンピングスクワットとした.1施行は20回とし,実施後1分間の休息をとった.これらを3回繰り返した.運動期間は平成23年4月3日からの5週間とし,週に3回,計14回運動を実施した.個別群の運動は他者との関わりをなくし閉め切った部屋で行った.運動中や休息時にフィードバックを与えなかった.集団群では対象者同士,手を繋ぎ円になって運動を行った.運動中は全員で声を出して回数を数えた.休息ごとに運動継続にむけた鼓舞しあうフィードバックを互いに行わせた.心理状態の評価は全運動実施日で運動後にアンケートを行った.対象が運動時に経験の4状態のどの心理状態か判定し,全実施日の心理状態を2群で比較した.また,運動時の心理状態を幾つかの要素ごとに評価する経験の質的評価もアンケートによって行った.すべてのアンケート項目は先行研究に基づき9件法で実施した.統計処理はSPSS ver15.0J for windowsを用い,有意水準は5%未満とした.2群間の心理状態の比較ではχ2検定を用いた.運動時の経験の質的評価の比較では対応のないt検定を用いた.また,各群の運動実施日間の差を一元配置分散分析とscheffeの多重比較を用いて比較した.【説明と同意】 対象者に研究の主旨,方法,個人情報の厳守について説明し同意を得た.【結果】 運動時の心理状態は,2群間で有意差はみられなかった.運動時の経験の質的評価は2群間で比較した結果,「運動中の充実感」「運動中の満足度」「運動中の楽しさ」「うまくこなせたか」「運動中の幸せ感」の項目で,個別群に比べて集団群が有意に高い点数であった(p<0.01).反対に「何かほかの事をしたいか」,「状況をコントロールできていたか」の項目では,集団群に比べて個別群が有意に高い点数であった(p<0.01).運動実施日ごとの経験の質的評価は,2群とも有意差はみられなかった.【考察】 運動時の心理状態の評価では,2群間で差がみられなかった.しかし,心理状態を質的な要素に分け,検討した結果では,個別群に比べて集団群において心理的満足感や充実感などが高い結果であった.集団運動が精神的賦活に効果的であるのは,個別での運動に比べ運動そのものの心理的満足感が高いためであるかもしれない.一方で「何かほかの事をしたいか」という項目を運動中の集中度として捉えると,個別運動では気がそれてしまい集中できていないと考えられる.反対に集団運動では他のことへ興味が移ることが少なく,集中して運動に取り組んでいると考えられる.集団運動での「状況のコントロール感」の低下は,運動中に周囲と同様の行動を促し,運動を一定の状態に保つことにつながり,運動を継続させる力になると考えられる.以上より,個別運動に比べて集団運動ではより心理的満足感が高く,運動を継続するという意味では適した特徴を持っていると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究において,個別運動に比べ集団運動で運動時の心理的満足感が高いことが示された.これらは,病院や施設などの理学療法場面において,集団運動を積極的に導入する理論的背景になりうると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ea0949-Ea0949, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548444928
  • NII論文ID
    130004693425
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ea0949.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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