2.高齢社会における統合医療,漢方の役割―災害時漢方診療の経験をもとに―

  • 高山 真
    東北大学大学院医学系研究科総合地域医療研修センター 東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科
  • 沼田 健裕
    東北大学大学院医学系研究科産科学婦人科学分野
  • 岩崎 鋼
    国立病院機構西多賀病院
  • 黒田 仁
    自治医科大学附属さいたま医療センター総合診療科
  • 加賀谷 豊
    東北大学大学院医学系研究科総合地域医療研修センター 東北大学病院卒後研修センター
  • 石井 正
    東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科
  • 八重樫 伸生
    東北大学大学院医学系研究科産科学婦人科学分野

書誌事項

タイトル別名
  • The Role of integrative medicine and Kampo treatment in an aging society: Experience with Kampo treatment during a natural disaster
  • 高齢社会における統合医療,漢方の役割 : 災害時漢方診療の経験をもとに
  • コウレイ シャカイ ニ オケル トウゴウ イリョウ,カンポウ ノ ヤクワリ : サイガイジ カンポウ シンリョウ ノ ケイケン オ モト ニ

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抄録

背景と目的:東日本大震災の際,災害弱者である高齢者は避難に難渋し避難所においても体力の衰え,免疫力の低下などから様々な疾患を患うことも多かった.本報告では,東北大学病院漢方内科が被災地域で行った漢方診療を振り返り高齢者における統合医療,漢方の役割について述べる.方法:発災から10週間までの期間に被災地域の避難所で行った漢方診療に関し,診療録をもとに症状の変遷や漢方診療の内容についてまとめた.結果:震災から2週間までは低体温や感冒,胃腸炎が多く,当帰四逆加呉茱萸生姜湯や人参湯,桂枝湯,五苓散などを処方した.2週間から6週間まではアレルギー症状や呼吸器症状が多く,小青竜湯や麦門冬湯などを処方し,6週間から10週までは精神症状が多く,抑肝散や加味帰脾湯などを処方した.これら経過を振り返るに,高齢者においては発災から間もないころには低体温症例が比較的多く,6週間以降は特に精神症状を訴える例が多かった.考察:震災後に行った漢方診療を振り返るに,多くはすでに西洋薬等が処方されていたものの症状が遷延している例も多く,漢方薬の追加で症状の改善をみる症例を数多く経験した.基礎代謝が低下し,津波をかぶり体が冷え切った低体温の高齢者には,体を温める漢方薬は西洋薬にない効果を発揮した.また,長期間続く避難所生活による精神的,肉体的ストレスによる免疫力低下にも漢方薬が貢献できた可能性がある.さらには,高齢者では効果の強い睡眠導入剤を使用することにより,余震の際に朦朧として力が入らずに転倒する危険性があるが,軽度に鎮静作用を持つ漢方薬は睡眠を補助しつつ,筋緊張を低下させないため使いやすかった.結論:漢方薬のエビデンスが蓄積されつつある現在,西洋医学と漢方医学の併用は災害時の困難な状況においても,統合医療として相補的に用いられるのが理想と考える.<br>

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