足関節筋力が健常青年の動的バランスに及ぼす影響

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抄録

【目的】転倒を、支持基底面内から重心を逸脱させるような状況下で、重心を支持基底面内に戻せなかった結果と捉えると、如何に重心を元に戻すかが転倒を防止する鍵となる。重心を元に戻す動的バランス反応に、足の背屈および底屈筋を使って重心を身体の前後に移動させる足関節戦略がある。この戦略は、立ち直る際に足部に大きなトルクを必要とするため、足関節の筋力に依存した反応様式であると考えられる。<BR>足の底屈および背屈筋力が大きくなると、それに比例して重心を前後に移動させる能力も向上するのだろうか。本研究では健常青年の足関節筋力と動的バランスの関係を示す。<BR>【方法】被験者は健常青年145名(男性58名、女性87名、平均年齢17.2 ± 1.4歳)とした。全ての被験者には事前に実験内容を説明し同意を得た。足関節等尺性筋力の測定には、筋力測定装置Myoret(RZ-450, 川崎重工業社)を用いた。背臥位で足関節を中間位に固定し、背屈および底屈の最大等尺性収縮を4秒間行わせ最大トルク値を記録した。動的バランスの測定には、重心動揺計(グラビコーダ, アニマ社)を使用した。立位にて足の底・背屈運動を行わせ、この時の重心動揺を周波数100Hzで10秒間記録した後、重心の前後方向移動距離を算出した。<BR>解析に用いた等尺性筋トルクは被験者の体重と身長で補正した。また、重心前後移動能力は、足長の範囲内をどれだけ移動できるかで表すため、重心移動距離を被験者の足の長さで除した足長比を用いた。<BR>【結果】重心前後移動能力と足関節筋力の間に有意な相関は見られなかった(底屈筋力: r = 0.14, P = 0.09, 背屈筋力: r = 0.09, P = 0.29)。男女別に見ると、足底屈筋筋力は男性が平均2.04 ± 0.41 Nm/(kgm)、女性が平均1.86 ± 0.36 Nm/(kgm)と男性が有意に大きかった(P < 0.01)。同様に、足背屈筋力も男性が有意に大きく、男性は平均1.28 ± 0.26 Nm/(kgm)、女性は平均1.02 ± 0.23 Nm/(kgm)であった(P < 0.001)。一方、重心前後移動の足長比は、男性が平均0.79 ± 0.05、女性が平均0.79 ± 0.04と有意差は見られなかった。<BR>【考察】足関節の底屈筋が強ければ、支持基底面の前方限界まで重心を移動できるものと思われる。しかし、Robinovitchらによると、前方に移動した重心を引き戻すのに要する足関節周りのトルクは、大きく見積もっても1.2 Nm/(kgm)程度である。今回測定した健常青年は、女性でもこのトルク値を大きく上回っていた。このことから、足関節の筋力は、ある一定値以上になると、動的バランスを向上させる要因にはならないことが考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), A0644-A0644, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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