杖使用立位時における手・肘・肩関節の水平面内の移動距離

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【目的】これまでに我々は、立位および歩行中の杖を使用している上肢について力学的および筋電図学的検討を行なってきた。本研究の目的は、T字杖(T杖)、四点杖(Q杖)、ロフストランド杖(L杖)の3種類の杖を使用して、片脚立位を行った時の杖使用上肢における手・肘・肩関節の水平面内の移動距離を比較し、杖の安定性について検討することである。<BR>【対象と方法】対象はインフォームド・コンセントの得られた健常男性8名で、平均年齢21.4歳であった。被験者の一側下肢を患脚と規定し、反対側上肢に杖を使用した。課題動作は3種類の杖を使用して、杖に体重の20%の荷重(20%PWB)をかけて、杖と患脚での片脚立位を5秒間保持した。杖への荷重量を一定にするため、患脚足部には下肢部分荷重訓練装置(アニマ社)を装着し、患脚に設定荷重量を超えた場合はその動作を無効とした。実験に先立ち、被験者は部分荷重片脚立位の練習を行った。測定には三次元動作解析装置VICON512(Oxford Metrics Ltd)を使用し、赤外線反射マーカーを杖使用側上肢の手・肘・肩関節に貼り付けた。解析は立位保持開始時のマーカー位置を原点とし、水平面内におけるマーカーの移動距離(mm)を算出し、3種類の杖で比較した。統計処理は分散分析を行い、事後検定にはTukey法を用いて、有意水準を5%以下とした。<BR>【結果】手関節の移動距離は、T杖で平均182.0mm、Q杖で56.1mm、L杖で64.8mmであり、T杖とQ杖、T杖とL杖の間に有意差が見られた(p<0.01)。肘関節の移動距離は、T杖で125.2mm、Q杖で97.7mm、L杖で48.4mmであり、T杖とL杖、Q杖とL杖の間に有意差が見られた(p<0.05)。肩関節の移動距離は、T杖で117.7mm、Q杖で58.8mm、L杖で31.6mmであり、すべての杖の間に有意差が見られた(p<0.05)。<BR>【考察】今回の結果から、T杖は手・肘・肩関節において移動距離が有意に大きな値を示した。このことは、杖からの床反力ベクトルを安定して手関節に通すことが困難であることを示しており、T杖使用時には20%PWBという荷重量は大きすぎることを示唆していると考えられる。また、先行研究において、Q杖はL杖に比べ、手・肘・肩関節における前後方向の動揺の標準偏差が有意に小さな値を示した。しかし、今回の結果から、肘・肩関節の移動距離はL杖の方がQ杖に比べ有意に小さな値を示した。これは、Q杖使用時には小さな振幅で頻回にバランスを調整していると考えられる。一方、L杖は前腕部のカフにより手関節が固定され、床反力ベクトルを容易に肘関節に通すことが可能となり、20%PWBでも安定した杖の操作が可能であると考えられる。

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