酸性食塩水投与によって作製される痛みモデル動物に対する運動介入の影響

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抄録

【目的】理学療法士はリハビリテーション医療全般にわたる臨床場面において,様々な痛みを抱える人々のケアに関与する。中でも,運動器を含む軟部組織由来の痛みは理学療法の介入対象となることが多い。したがって,軟部組織由来の痛みを検討することは大変重要であると考えられ,モデル動物を用いた研究が行われてきた。これまでの先行研究では,軟部組織由来の痛みモデル動物を作製する方法として,酸性(pH 4.0)食塩水(以下AS)を投与したモデルが報告されている。このモデル動物は,ラットの片側腓腹筋にASを投与することにより,足底皮膚への刺激に対する痛み行動が両側性に4週間増加することが報告されている。しかし,ASを投与したモデル動物に対して介入効果を検討した研究は少ない。介入効果を検討している数少ない先行研究の一つによると,トレッドミル運動を行ったところ,足底への刺激に対する痛み行動の増加が改善されたと報告されている。そこで,軟部組織由来の痛みモデルに対する介入方法を検討することを目的とし,本研究では先行研究を参考に,AS投与によって作製される痛みモデル動物における痛み行動がトレッドミル運動によって改善するかを検証することとした。<BR>【方法】実験動物にはSD系雄性ラット(250-350g)を用い,先行研究を参考にモデル作製を行った。すなわち,ハンドリングおよびトレッドミルの練習期間を設けた後に,右腓腹筋へASを5日間の間隔をおいて2回投与した。トレッドミルによる運動は,すべてのラットに対して,処置前に行う練習として 1日1回,3日間,3m/min,15~30分間実施し,さらに2回目のASを投与した4時間後から1日1回,5日間,6m/min,15~30分間実施した。実験群は,ASを投与し運動を行う群(AS+運動群)と運動を行わない群(AS+非運動群),さらに生理食塩水を投与し運動を行う群(生食+運動群)の3群とし,各群6匹で比較検討した。<BR> また刺激に対する痛み反応の評価として,足底へのvon Frey hair testによる逃避反応回数を計測した。具体的には,ラットをプラスチックケース内に入れた状態で,金網の下から両足底の無毛部に対してフィラメントを押し付けることにより,機械的刺激に対する反応を評価した。なお,本評価はラットに投与した物質を盲検化した上で実施した。<BR>【説明と同意】本研究は本学医学部動物実験委員会保健学部会の承認(承認番号:022-026)を得て実施した。<BR>【結果】von Frey hair testによる逃避反応回数は,AS+非運動群では2回目のAS投与3日後から両側性に増加したが,AS+運動群は経過とともに減少する傾向を示し,運動開始から4,5日後(2回目のAS投与4,5日後)には有意な差を認めた。また,AS+運動群の逃避反応回数は生食+運動群と同様の経過を示し,各群との間に有意な差を認めなかった。<BR>【考察】von Frey hair testによる逃避反応回数は,AS+運動群とAS+非運動群の2群間において異なる傾向を示し,先行研究と同様の結果を得た。さらに,AS+運動群は生食+運動群と同様の傾向を示した。これらの結果より,ASを投与したラットでは痛み行動が生じるが,トレッドミル運動はその反応を軽減する効果があると推測される。<BR> また先行研究の逃避反応の経過と比較すると,AS+非運動群では反応回数が上昇する時期が遅く,AS+運動群では反応回数が低下する時期が遅かった。要因として推測される事象として,処置前の練習として行うトレッドミル運動の条件が本研究と先行研究とでは異なる点が挙げられる。本研究では練習段階におけるトレッドミル運動を先行研究と同様の速度ではあるが長時間行うことで,ラットが走行運動をより確実に行えるようにした。それ以外のプロトコルに関しては先行研究と同様であり,本研究でみられた痛み行動の変容には,練習段階のトレッドミル運動が影響した可能性が推測される。<BR> 上記の点も踏まえ,今後はASを投与する前の運動による痛み行動への影響や,ストレッチなど他の方法による介入も検討していきたいと考えている。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究はAS投与によって惹起された痛みに対するトレッドミル運動の効果を示した。先行研究においては,軟部組織由来の痛みに対して運動介入によって痛み行動の改善が示された報告は未だ少ない。本研究はトレッドミル運動が軟部組織由来の痛みを軽減する効果を有する可能性をうかがわせる結果を示しており,今後,軟部組織由来の痛みに対する運動療法の効果を裏付けるエビデンス構築の一助になると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1099-AbPI1099, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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