常圧低酸素環境での安静時におけるエネルギー代謝への影響

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  • 酸素濃度14.5%と20.9%での脂肪酸化率,ブドウ糖酸化率およびエネルギー消費率の比較

抄録

【目的】<BR> ヒトは,生命維持のためにはエネルギーの産生が必要で,その過程には有機的過程および無機的過程があり,有機的過程には酸素が必要不可欠である.海抜0m地点では酸素濃度20.9%であり,標高3,000mに至ればその値は14.5%と低くなり,気圧の影響を受ける.生活習慣と環境との関連からは,標高1000~3000mの高地住民には,冠疾患や高血圧などの発生率が低く,長寿者の多いことが報告されている.<BR> 今回,本研究では低酸素環境と通常酸素環境によるエネルギー代謝への影響について脂肪酸化率、ブドウ糖酸化率およびエネルギー消費率を比較し,検討したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は,健常成人男性7名で年齢20.28±0.75歳,身長168.3±6.5cm,体重67.3±11.2kgであった.被験者は前日の夕食以降絶食として翌日の午前中に実験を行った.研究の条件は,常圧下での低酸素濃度環境(以下,低酸素)(酸素濃度14.5%,0.7atm,高度3,000m相当)および通常酸素濃度環境(以下,通常酸素)(酸素濃度20.9%,1.0atm)とした.各条件下での30分間の安静座位における呼気ガス分析を行い,脂肪酸化率(以下,LOG,mg)およびブドウ糖酸化率(以下,GOR,mg)および,エネルギー消費率(以下,EER,kcal/分)を比較した.低酸素は,塩化ビニール製テント(容積4.0m3)と膜分離方式の高・低酸素空気発生装置(分離膜:宇部興産製UBEN2セパレーター,コンプレッサー:アネスト岩田製SLP-22C)を用いて設定した.各条件での測定は,最初通常酸素条件で行い,その後1週間の間隔を設けて低酸素条件で実施した.呼気ガス分析は,エアロモニター(AE-300Sミナト医科学製)を用いた.各データは安静開始から終了まで1分間隔で測定し,5分間毎の平均値で比較検討した.NU(尿中窒素排出量/分)は0.008g/分で一定とした.LOR(mg)=1.689×(VO2-VCO2)-1.943×NU,GOR(mg)=4.571×VCO2-3.231×VO2-2.826×NU,EER(kcal/分)=(3.581×VO2+1.448×VCO2)/1,000-1.773×NUで得られたLOR,GOR,EERは体表面積で補正した.統計学的手法は,対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者には,研究の主旨・内容および注意事項について説明し,同意を得たのちに実験を開始した.<BR><BR>【結果】<BR> LOGは,安静開始直後から終了まで通常酸素では大きな変化を認めず平均で27.6mg/m2,低酸素は平均28.6mg/m2であるものの終了時では42.1mg/m2となり,通常酸素より有意に多かった(p<0.05).<BR>GORは,安静開始直後から終了時まで低酸素と通常酸素の間に有意差を認めなかった.<BR><BR>【考察】<BR>今回,常圧低酸素環境下での安静において,通常酸素濃度より安静時間25分から30分ではエネルギー代謝に影響を与え,脂肪酸化量が有意であった.<BR>低圧低酸素環境では,安静時代謝の亢進および脂質代謝が改善され,より効果的な減量が可能であると報告されている.常圧低酸素環境においても同様の効果が生じる可能性が示唆され,生活習慣病や減量を目的とした理学療法を施行する時の環境として利用できると考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 生活習慣病である糖尿病は,平成19年度の国民健康・栄養調査によると予備軍を含めれば2210万人といわれ,その予防・改善は大きな課題である.今回の研究は,脂質代謝が有意になる結果となり,生活習慣病患者が運動を行う場面での応用できる,有用な意義があると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2055-AbPI2055, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571304320
  • NII論文ID
    130005016595
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.abpi2055.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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