喫煙者の肺と血液中の酸化ストレスは最大運動負荷後に増加する

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抄録

【目的】<BR> 生体に酸化傷害を与えうる活性酸素の産生と酸化傷害から身体を保護する抗酸化防御のバランスが崩れ,活性酸素産生過剰に傾いた状態が酸化ストレスと定義される.喫煙習慣により安静時の肺および血液中の活性酸素が増加し,抗酸化防御が低下することが明らかになっている.しかし,喫煙者における運動負荷後の肺および血液中の酸化ストレス動態については不明な点が多い.そこで本研究では,喫煙者に対して最大運動負荷を実施し,肺および血液中の酸化ストレス動態を明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】<BR> 喫煙者15名(25.9±2.9歳,喫煙歴:3.2±2.8 pack-years),非喫煙者18名(24.2±4.3歳)を対象とした.喫煙者は12時間の禁煙後に測定を開始した.対象者は自転車エルゴメータ(Powermax-VII; Combi)を使用し,体重の7.5%の負荷にて30秒間の全力ぺダリング運動(Wingate Anaerobic Test)を行い,最大パワーを測定した.呼気凝縮液(exhaled breath condensate: EBC)の採取には呼気凝縮液採取装置(ECoScreen; Jeager)を使用し,運動負荷前後15分間でEBCを採取した.採血は運動負荷前,運動負荷直後,運動負荷15分後に指尖より行った.活性酸素の指標として,EBC中過酸化水素濃度と血液中ヒドロペルオキシド濃度を,抗酸化防御の指標としてEBC中および血液中の抗酸化力を測定した.活性酸素と抗酸化防御の測定には分光光度計(Free Radical Elective Evaluator; Diacron)を用いた.<BR>【説明と同意】<BR> 測定の趣旨・方法について口頭および書面にて説明を行い同意を得た.本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座研究倫理委員会(承認番号:0987)の承諾を得て実施した.<BR>【結果】<BR> 最大パワーは喫煙者と非喫煙者で有意差を認めなかった(喫煙者: 7.6±0.6 vs 非喫煙者: 7.8±0.8 Watt/kg; P =0.584).血液中ヒドロペルオキシド濃度は喫煙者において運動負荷前と比べ運動負荷直後と運動負荷15分後に有意に増加し(運動負荷前: 289.0±31.5 vs 運動負荷直後: 323.5±42.9,運動負荷15分後: 324.5±35.1 U.CARR; 各P <0.001),非喫煙者も同様に有意な増加を認めた(運動負荷前: 286.8±35.3 vs 運動負荷直後: 303.6±29.0,運動負荷15分後: 306.4±40.8 U.CARR; 各P <0.01).血液中抗酸化力は喫煙者において運動負荷前と比べ運動負荷直後と運動負荷15分後に有意に増加し(運動負荷前: 2380.5±309.1 vs 運動負荷直後: 2684.1±310.6,運動負荷15分後: 2771.3±337.2 μmol/l; 各P <0.001),非喫煙者も同様に有意な増加を認めた(運動負荷前: 2281.1±184.9 vs 運動負荷直後: 2625.8±302.9,運動負荷15分後: 2615.7±231.4 μmol/l; 各P <0.001).EBC中過酸化水素濃度は喫煙者において運動負荷前と比べ運動負荷後に有意に増加し(2.2±1.4 vs 3.4±1.5 μmol/l; P =0.030),非喫煙者においては運動負荷前後に有意な変化を認めなかった(2.0±1.0 vs 1.7±1.3 μmol/l; P =0.395).一方,EBC中抗酸化力は喫煙者,非喫煙者ともに運動負荷前後に有意な変化を認めなかった(喫煙者: 256.5±20.1 vs 258.3±27.0 μmol/l; P =0.730,非喫煙者: 257.0±30.7 vs 255.5±26.8 μmol/l; P =0.836).<BR>【考察】<BR> 喫煙者と非喫煙者ともに血液中ヒドロペルオキシド濃度と抗酸化力が運動負荷直後に増加したことから,喫煙習慣の有無に関わらず最大運動負荷後に血液中の活性酸素は増加し,その増加に対応するために抗酸化防御も高まることが示唆された.一方肺においては喫煙者では運動後にEBC中の過酸化水素濃度が増加したことから,最大運動負荷により喫煙者の肺の活性酸素が増加することが明らかとなった.この変化は非喫煙者と異なることから,喫煙者と非喫煙者では運動負荷中の肺の活性酸素産生メカニズムが異なることが示唆された.抗酸化防御については,血液中では運動負荷直後の活性酸素増加に対応するために抗酸化防御が増加したが,EBC中では喫煙者の過酸化水素が増加しているにも関わらず抗酸化力は変化を認めなった.この変動要因は本研究から解明できないが,喫煙者において肺と血液中の抗酸化防御のメカニズムが異なることが示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究では,喫煙習慣を有する者に対する運動による酸化ストレス動態の一端を明らかにした.得られた研究成果は,酸化ストレスを増加させない観点からの運動療法を考案する一助となり,健康増進にも寄与しうる研究であると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AcOF2013-AcOF2013, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573955328
  • NII論文ID
    130005016707
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.acof2013.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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