思春期初期に呼吸障害と胃食道逆流症により状態悪化をきたしたが,その後良好な経過に転化できた脳性まひ児へのアプローチ

DOI
  • 金子 断行
    心身障害児総合医療療育センターリハビリテーション室
  • 竹本 聡
    心身障害児総合医療療育センターリハビリテーション室
  • 村山 恵子
    心身障害児総合医療療育センター小児科 げんきこどもクリニック
  • 中谷 勝利
    心身障害児総合医療療育センター小児科
  • 北住 映二
    心身障害児総合医療療育センター小児科

抄録

【目的】<BR>多くの重度脳性まひでは思春期に合併症である呼吸障害・嚥下障害・胃食道逆流症(GER)などを悪化させる(北住2002)。今回、思春期初期に呼吸障害とGERにより状態悪化をきたしたが、集中的治療を行い良好な経過に転化した症例を報告する。<BR>【方法】<BR>症例:17歳・女児 診断名:脳性まひ アテトーゼ型 側弯・Cobb角39° 喉頭軟化 気管軟化 気管部分狭窄 GER てんかん<BR>経過と治療:9歳時、誤嚥性肺炎・急性呼吸不全で他院に入院し、気管内挿管・人工呼吸管理。抜管後も努力性呼吸による喉頭・気管軟化の助長、胃食道逆流の悪化、誤嚥等による呼吸障害悪化をきたす悪循環が生じた。BiPAP導入するも呼吸状態は不安定で、常時喘鳴が続き頻回な入院を繰り返した。喉頭気管分離術を勧められたが両親の同意は得られなかった。12歳より集中的な呼吸への運動療法・肺内パーカッションベンチレータ(IPV)・バギング・腹臥位保持装置導入・注入の工夫を積極的に開始。<BR>運動療法では、本児は頚部過伸展と右への非対称的な全身性伸展パターンが強く出現した。胸郭が挙上位に固定され呼吸が浅く、努力呼吸となり痰喀出困難で喘鳴が続いたため、GERを悪化させ、GERによる誤嚥等が呼吸障害を悪化させる悪循環であった。治療は頚部過伸展により喉頭・気管軟化は助長される故、頚過伸展の緩和しつつ、胸郭を下制させ深い胸郭呼吸運動と排痰を促がした。腹臥位は呼吸障害とGERの改善に関与する(北住2004)故、腹臥位保持装置を導入。通常の腹臥位では本児は上方の対象物に追視し、頭部過伸展・全身過伸展を呈したため、本児が下方に追視できるように床から約130cmの高さに装置を設計し、頚部過伸展・全身伸展パターンを防止した。腹臥位は家族の強い協力で平日約4-5時間/日、休日6-7時間/日以上保持された。陽圧換気療法は、BiPAPの条件を本児の変動する呼吸状態に合わせて変更し2-3時間/日施行。家庭でバギングを導入し5回/日以上施行。IPVも導入し、20psi・Easy6-7、5-10分間の条件で開始した。排痰促進のため徐々に25psi・Hard11-12で15-20分間と条件を上げた。注入は1日の容量を1500ccで栄養剤を薄め7-8回に分散し、腹臥位で注入を開始。胃内停溜のため夜間注入は中止。<BR>本集中治療の有効性検証のため、集中的治療前1年間・治療6月後から1年間・治療1年6ヵ月後から1年間・治療2年6ヵ月後から1年間・治療3年6ヵ月後から1年間の、下気道感染による入院回数と、1ヵ月の平均嘔吐回数を比較した。但し、嘔吐回数は治療前1年間は計3ヵ月、治療1年6ヵ月後と治療2年6ヵ月後は計1ヵ月、治療3年6ヵ月後は計2ヵ月把握できない月があった故、嘔吐回数は治療前1年間(9ヵ月)、治療6ヵ月後(12ヵ月)、治療1年6ヵ月後(11ヵ月)、治療2年6ヵ月後(11ヵ月)治療開始3年後6ヵ月(10ヵ月)を比較。<BR>【説明と同意】<BR>家族へは本研究の説明を行い研究主旨と報告の同意を得た。<BR>【結果】<BR>治療前1年間(11歳時)の下気道感染での入院回数は4回・治療6ヵ月後から1年間(13歳時)では1回・治療1年6ヵ月後から1年間(14歳時)では0回・治療2年6ヵ月後から1年間(15歳時)では0回・治療開始3年6ヵ月後から1年間(16歳時)では0回。<BR>治療前1年間(計9ヵ月)の嘔吐回数は1ヵ月平均60.9回・治療6ヵ月後から1年間(計12ヵ月)では平均3.8回・治療1年6ヵ月後(計11ヵ月)では平均4.7回・治療2年6ヵ月後(計11ヵ月)では平均5.1回・治療開始3年6ヵ月(計10ヵ月)では平均2.9回。<BR>【考察】<BR>多くの重度脳性まひは、思春期頃より合併症を増悪させ、呼吸機能・消化器機能が低下する。本児は、思春期初期に努力性呼吸に伴なう胸腔内圧上昇・食道内陰圧増加によるGERの悪化、誤嚥等による呼吸状態の悪化という悪循環に陥り頻回に入院した。集中的治療で、下気道感染入院回数が減少したことは呼吸機能改善・維持を示唆している。そのため悪循環が改善され、GER激減につながったといえる。現在はBiPAPは体調不良時に使用、IPV治療も休止、当初勧められた喉頭気管分離術の必要性もなくなった。全ての複合的効果により、現在思春期後半でも呼吸機能と消化器機能が維持でき生活が安定している。その結果、家族の負担と本児の苦痛は軽減しQOLは向上した。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>多くの重度脳性まひは思春期に合併症の機能低下をきたす。呼吸障害やGERを集中的治療にて改善・継続できた報告は、同様なケースに苦慮している理学療法士にとって参考になると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), BcOF2040-BcOF2040, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549825536
  • NII論文ID
    130005016954
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.bcof2040.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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