慢性腰痛症例に対する体幹安定化エクササイズの効果について

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  • ランダム化比較試験

抄録

【目的】近年,慢性腰痛症において脊椎に直接付着する体幹深部筋群,特に腹横筋の機能不全が注目されている.また,この腹横筋の機能不全に対して過去に行われた介入研究では疼痛の変化や質問紙でのみ評価しているものが多く,筋厚の変化といった形態学的な視点からみたエクササイズ(ex.)の効果や,より機能的な肢位における腹横筋の活動に与える影響について検討している研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,超音波画像を使用して慢性腰痛症例に対する体幹安定化ex.が腹横筋の筋厚や疼痛,機能障害レベルに及ぼす効果を究明することとした.<BR>【方法】3か月以上続く慢性腰痛を有する本学学生19名を対象とし,介入期間中に体幹安定化ex.を行うex.群と,対照としてのcontrol.群の2群に群分けし,被験者をランダムに割りつけた(ex.群:12名,con.群:7名).介入期間は10週間とし,開始前(baseline),中期(5週目;5 wks),終了後(10週目;10 wks)にそれぞれ3回計測を行った.期間中使用する体幹安定化エクササイズはAbdominal Drawing-in Maneuvers(ADIM)とし,10秒保持を10回繰り返すことを目標として1日15分,週3回行った.また,被験者にはエクササイズ実施日などを記入するためのself check sheetを配布し,最終日に回収した.con.群には期間中に体幹安定化ex.を実施しないよう指示した.次に,計測手順として,まず始めに各質問紙表(Oswestry Disability Index 2.0;ODI 2.0,Roland Morris Disability Score;RMD,McGill Pain Questionnaire;MPQ,VAS)に回答してもらい,その後,背臥位,座位,立位,Active Straight Leg Raise(ASLR)といった異なる4姿勢における腹横筋の筋厚(安静時,動作時)を,各々3回ずつ,超音波画像により計測した.ASLRは計測側に対して同側,対側での下肢挙上を行った.計測機器はEsaote社製MyLab25(リニアプローブ,12MHz)を用いた.データ処理は各群,各姿勢,各時点における腹横筋筋厚の3回計測の平均,また各質問紙のスコアを算出した.筋厚,筋厚変化率に関する統計解析は反復測定による一元配置分散分析を用いて行い,post hoc testにはBonferroniを使用した.質問紙スコアに関してはWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した.有意水準は0.05未満とした.<BR>【説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>【結果】まず期間中,ex.群の1名が音信不通によりドロップアウトしたため,解析の対象から除外した.ex.群の腹横筋安静時筋厚は5 wks,10 wksにおいて,背臥位に比して座位,立位で有意に増加した(p<0.001).同様に,ex.群の腹横筋動作時筋厚では座位,立位においてBaselineに比して5 wks,10 wksで有意な筋厚増加を認めた(p<0.05).ex.群のASLRに関しては5 wks,10 wks時に同側,対側下肢挙上共に安静時に比して動作時に有意な筋厚の増加を認めた(p<0.001).しかしながら,以上の3結果はcon.群では同様の結果は認められなかった.VAS,ODI,MPQに関して,ex.群でのみBaselineと10 wksの間で有意差が認められた(p<0.01).<BR>【考察】本結果から,ex.群の腹横筋安静時,動作時筋厚は座位,立位で増加し,またASLRは動作時に有意に筋厚が増加するようになった.過去に,健常者で見られる腹横筋の自動的収縮が慢性腰痛症例では見られなかったという報告がある.つまり,本研究から慢性腰痛症例に見られる腹横筋の機能不全がex.により改善したために座位,立位といったより機能的な肢位への姿勢変化に対して腹横筋の自動的収縮を引き出せるようになり,更には腹横筋を活動させやすくなったことが動作時筋厚の増加につながったことを示す.動作時筋厚の増加もex.の効果を示す指標ではあるが,これがより機能的な肢位における腹横筋の自動化された応答活動につながらなければ真に腹横筋の機能が改善したとは言えない.故に,腹横筋の自動化された収縮とはADIMのような意識的な収縮とは異なり,より体幹の安定性に対する腹横筋の本質的な機能を反映すると考えられる.質問紙スコアに関しては,ex.による脊椎安定性の向上が機械的ストレスを減弱させ,これが疼痛や機能不全の改善につながったものと考える.しかしながらcon.群では同様の結果が認められなかったことから,con.群では腹横筋の機能不全が持続していることを示唆する.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究から,体幹安定化ex.の効果を検討する際は,腹横筋の自動化された収縮に着目して評価することが重要であることを示した.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2229-CbPI2229, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572191104
  • NII論文ID
    130005017206
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2229.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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