若年成人女性における疼痛誘発テストによる仙腸関節部愁訴と全身関節弛緩との関連

DOI
  • 後藤 あかり
    国際医療福祉大学福岡リハビリテーション学部理学療法学科
  • 矢倉 千昭
    国際医療福祉大学福岡リハビリテーション学部理学療法学科
  • 相馬 加奈子
    国際医療福祉大学福岡リハビリテーション学部理学療法学科
  • 濱地 望
    高木病院リハビリテーション科
  • 吉村 和代
    高木病院リハビリテーション科

抄録

【目的】<BR> 仙腸関節は,靭帯による結合が強固な平面関節で,その可動性は非常に乏しい.仙腸関節痛の要因には,関節の不安定性の存在が指摘されているが,局所的あるいは全身的な関節の不安定性によるものかは明らかではない.また,仙腸関節は,脊椎と骨盤を繋ぐ唯一の関節であり,高身長や過体重などの身体的特性によって仙腸関節に加わるメカニカルストレスが仙腸関節痛の要因となっている可能性も考えられる.一方,全身関節弛緩は,関節包や靭帯などの結合組織の支持性の低下によって全身の関節に過可動性が生じる身体的な特徴のひとつで,女性に多くみられる.全身関節弛緩が体幹や下肢の障害・外傷の要因である可能性は指摘されているが,統一した見解が得られてなく,また全身関節弛緩と仙腸関節痛との関連についての報告も少ない.そこで,本研究では,一般の若年女性を対象に,疼痛誘発テストによる仙腸関節部愁訴と身体特性および全身関節弛緩との関連について調査した.<BR>【方法】<BR> 対象は,一般若年成人女性106名.平均年齢20.5±1.1歳であった.身体特性の測定は,身長,体重,ウエスト周囲径および体脂肪率を測定した.全身関節弛緩は,東大式の全身関節弛緩テストを用いて,手関節,肘関節,肩関節,股関節,膝関節,脚関節および脊柱における過可動性を測定した.各関節で過可動性があると判定された場合に1点(股関節以外の四肢関節で片側のみ過可動性があると判定されたときは0.5点とする)とし,7点中4点以上を全身関節弛緩有,それ未満を弛緩無と判定した.仙腸関節の検査は,仙腸関節部の痛みや違和感があるかを口頭で確認し,仙腸関節疼痛誘発テスト(Patrickテスト,Gaenslenテスト,Newtonテスト変法,仙腸関節引き離しテスト)を実施した.これらの疼痛誘発テストのいずれか一つで仙腸関節部に痛みや違和感を訴えた場合を仙腸関節部愁訴有,訴えなかった場合を愁訴無と判定した.統計解析には,SPSS 11.0J(SPSS Inc.)を用い,仙腸関節部愁訴の有無による基本特性の比較は対応のないt検定,仙腸関節部愁訴と全身関節弛緩との関連はカイ二乗検定,さらに多変量解析としてロジスティック回帰分析を行った.<BR>【説明と同意】<BR> 国際医療福祉大学倫理委員会の承認(承認番号:10-86)を得たのち,対象者に書面にて研究の内容を説明し,同意を得てから調査を実施した.<BR>【結果】<BR> 全対象者に慢性的な仙腸関節痛はなかったが,疼痛誘発テストによる仙腸関節部愁訴有は106名中14名(13.0%),また全身関節弛緩有は17名(15.7%)にあった.仙腸関節部愁訴の有無による基本特性の比較では,身長とウエスト周囲径は,有意ではなかったが,ボーダーラインの差がみられた.仙腸関節部愁訴の有無と全身関節弛緩の有無との関連では,仙腸関節部愁訴有における全身関節弛緩有の割合が愁訴無に比べて有意に高かった.また,仙腸関節部愁訴の有無を従属変数,身長,ウエスト周囲径および全身関節弛緩の有無を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,仙腸関節部愁訴有に対するオッズ比(95%信頼区間)は,身長(1cm高くなると)が1.17(1.03-1.34),ウエスト周囲径(1cm太くなると)が0.85(0.74-0.97),全身関節弛緩(弛緩有)が4.53(1.13-18.18)であった.<BR>【考察】<BR> 本研究の結果,高い身長,細いウエスト周囲径および全身関節弛緩は,仙腸関節疼痛誘発テストによる仙腸関節部愁訴の独立した危険因子であることが示された.仙腸関節は,脊椎と骨盤を繋ぐ唯一の関節であり,体幹運動における力学的な支点となる.身長が高く(上半身のアームが長く)なると,仙腸関節部に加わるメカニカルストレスが大きくなる可能性がある.また,ウエスト周囲径は,腹部肥満の指標であるが,一方で腰部の筋-骨格的な脆弱性の指標でもある.体幹の筋量が減少,筋力が低下し,ウエスト周囲径が細くなると,腰部に加わるメカニカルストレスから仙腸関節部を保護できなくなると考えられる.さらに,仙腸関節は靭帯結合性の強固な関節であり,全身関節弛緩があると仙腸関節の支持性が低下し,疼痛誘発テストなどのストレスによって仙腸関節部の疼痛や違和感などの愁訴を生じやすくなると考えられる.しかし,本研究では,生活活動で腰部にメカニカルストレスが加わる運動・作業,体幹の筋量・筋力を調査していないため,今後,さらなる調査が必要である.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 仙腸関節痛と全身関節弛緩の関連についての調査は,全身関節弛緩による体幹や下肢の外傷・障害の発症予防,効果的な理学療法を検討するうえで重要な課題である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2231-CbPI2231, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572192128
  • NII論文ID
    130005017208
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2231.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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