足関節可動性がダイナミックアライメントに及ぼす影響

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タイトル別名
  • 左アキレス腱断裂術後の症例を通して

抄録

【目的】<BR>アキレス腱断裂術後の足関節可動域に関する報告や,跛行に関する報告は緒家により様々な報告がなされているが,足関節運動の質が跛行に及ぼす影響についての報告は少ない.今回,アキレス腱断裂術後約10週経過したにも関わらず跛行を呈した症例を経験し,足関節背屈時の距骨下関節に着目して理学療法を行った結果,良好な改善が得られた.今回の報告の目的は,その経験を通して評価体系についての研究を進めることである.<BR><BR>【方法】<BR>対象は20歳代,男性.剣道で踏み込んだ際に左アキレス腱を断裂し,他院にてOpe施行.その後経過良好のため退院するが,術後約10週経過したにも関わらず,歩行時の疼痛と上手く歩けないとの主訴で来院された.初期評価時では,歩行時のinitial contact(以下IC)時に踵骨への疼痛,terminal stance(以下TSt)時に断裂部位への疼痛があり,さらに歩いても前へ進まないという訴えがあった.歩行時の左立脚相では常に距骨下関節(以下ST関節)回内,下腿内旋であり,身体重心は右側へ偏位していた.各関節の可動域において著名な左右差はなかった.しかし,足関節背屈において過度なST関節回内を呈した背屈であり,ST関節中間位にて背屈を行うと可動域制限が著明に現れた.MMTに関しては左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が3,腓腹筋,ヒラメ筋で2と筋力低下を認めた.activeSLRにおいても,左側で陽性となった.立位アライメントは,左側のST関節回内位,下腿内旋が見られ,骨盤左回旋,体幹右回旋であった.なお,右側のPSISとASISの差2横指,左側のPSISとASISの差1横指と左側の骨盤後傾が見られた.身体重心は右側へ偏位していた.<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は症例の同意を得て,ヘルシンキ宣言に基づいて行った.<BR><BR>【結果】<BR>理学療法アプローチをST関節内側後方への滑り込み制限に対して徒手療法を行い,ST関節を安定させる目的で後脛骨筋,腓骨筋群の筋力トレーニング行った.その結果,再評価時ではST関節中間位での足関節背屈可動域は改善し,歩行時の疼痛,前方への推進力も改善した.歩行時,左立脚相でのST関節回内,下腿内旋は改善し身体重心の位置も正中位へ近づいた.MMTに関しても左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が4,腓腹筋,ヒラメ筋で3と筋力が改善し,activeSLRも陰性と改善が得られた.立位アライメントでは,左側のST関節が中間位へ近づき,下腿内旋の改善が得られた.骨盤,体幹の回旋においても改善が得られ,左側のPSISとASISの差も1横指半と改善された.なお,身体重心も正中位へ近づいた.<BR><BR>【考察】<BR>今回,症例の主訴であった歩行時の疼痛,前方への推進力低下をST関節に着目して理学療法アプローチを行った結果,良好な改善が得られた.IC時の疼痛に関しては初期評価時に足関節背屈でST関節の内側後方への滑りが見られず,その結果過度なST関節回内を呈した背屈となっていた.そのため,IC時の衝撃吸収が行えず踵骨部に疼痛が生じていたと考えた.また,TSt時の疼痛においてはST関節回内位であることに加え,ST関節回内位により生じる前足部の不安定性に対して足底筋が過剰収縮する2つの要因により下腿三頭筋に牽引力が生じ,その状態で前方への推進力を得るため,努力性の蹴り出しを行った結果ではないかと考えた.なお,初期歩行時に前方への推進力が得られなかったのは,loading responseからmid stance時に前足部が早期に回内することで重心が正常よりも早い段階で内側へ偏位したためだと考えた.前足部が早期より回内する要因としては,立位時における身体重心右側偏位,長腓骨筋の機能不全により長腓骨筋と筋連結をしている前脛骨筋の筋力低下,さらに,足部から起こる上行性運動連鎖により骨盤後傾位となり,殿筋群の筋力低下によって,右側の骨盤が下制することで身体重心が右側に偏位したことが考えられた.以上のことから,初期評価時では足関節背屈時におけるST関節内測後方への滑り込み制限がダイナミックアライメントに影響を及ぼし,各関節の筋力を低下させ,歩行時の疼痛,前方への推進力低下を招いていたと考えた.したがって,理学療法アプローチによりST関節の後方内側への滑り込み,安定性が改善されたことで,再評価時ではダイナミックアライメントが改善し,各関節の筋力が改善したことなどに伴い,歩行時の疼痛,前方への推進力が改善したと考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の結果から,理学療法評価を行う際には量だけでなく運動の質の評価も行い,他関節への影響も考慮する必要があることを再確認できた.今後の展望としては,各関節の可動性の違いによる筋活動の変化を筋電図等を用いて臨床の場で研究を行っていきたい.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CdPF1027-CdPF1027, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547968640
  • NII論文ID
    130005017380
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cdpf1027.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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