仙骨部褥瘡患者に対する直流微弱電流刺激療法の試み

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抄録

【目的】褥瘡は慢性難治性潰瘍であるため,治癒期間の短縮が望まれる.そこで,近年の褥瘡治療は,創面からの滲出液中のサイトカインを管理しながら,湿潤環境下で行っている.そのため,湿潤環境を維持しながら使用可能な物理療法の選択が必要である.そこで,滲出液を吸収したドレッシング材に電極を挿入し,ドレッシング材を電極として使用することで,創部に直接電流刺激が可能であると考えた.また,褥瘡治癒を促す線維芽細胞は陰極に遊走することが報告されていることから,創部に陰極を置き,直流微弱電流刺激を行うことで治癒期間を短縮できると推測される.以上の仮説に基づいた直流微弱電流刺激により、褥瘡治癒が促進した症例を経験したので報告する。<BR><BR>【方法】対象は自力体位変換が困難であり,日常生活自立度Cランクの80歳代の女性である.平成22年5月中旬に当院に入院した持ち込み褥瘡症例である.初期褥瘡創面評価時のDESIGN-Rは26点であった.こちらからの問いかけに対しての返答はみられなく,股・膝関節に重度の関節拘縮がある.マットレスは,エアマットレス(アドバン,モルテン社)を使用し,体位変換は2時間おきに行った. 2週間後,DESIGN-R 13点の時点で電流刺激療法を開始した.5週間後にDESIGN-R 5点となり順調に褥瘡治癒に向かっていたが,6週目に創面に感染徴候がみられ,滲出液量が増加し,ポケットが形成された(DESIGN-R 19点)ため,電流刺激療法を中止した.7週目にはDESIGN-R 25点となった.その後も保存療法で管理していたが,12週目になってもポケットに改善がみられなかったため,医師によるデブリードマンが行われた.13週目(DESIGN-R 16点)に,創の縮小を目的に電流刺激療法を再開した.電流刺激療法再開時のDESIGN-Rは13点であった.<BR>方法は,電流刺激装置(Chattanooga社製,Intelect Advanced Combo)を用いて,直流微弱電流刺激療法を行った.電極位置は,創面上のドレッシング材に陰極を挿入し,褥瘡周囲の健常皮膚部分に陽極を貼付した.刺激強度は,微弱電流測定装置を用いて損傷電流を測定し,合わせて100μAになるよう電流値を設定した.その他の設定は,周波数0.1Hz ,治療時間は40分とした.また,電流刺激療法終了時に両極間にシャント作業を行った.創面積はビジトラック(スミスアンドネフュー社)を用いて計測した.<BR><BR>【説明と同意】電流刺激療法を行うにあたり,患者および患者家族に対し安全性を説明し,患者家族から学会発表および学術論文への投稿の許可を得て実施した.<BR><BR>【結果】電流刺激療法開始直後から創縮小が促進し,電気刺激療法再開後9週間(褥瘡発生から22週目)で治癒に至った.<BR><BR>【考察】日本褥瘡学会予防・管理ガイドラインによると,創縮小において電流刺激療法は推奨度Bであり,行うように勧められている.しかし,本邦の褥瘡治療に電気刺激療法を選択することは少ない現状にある.そのため,本症例に対して電気刺激療法を行うことにより,褥瘡治癒期間の短縮を期待して試みた.その結果,電流刺激療法再開から8週間で褥瘡が治癒した.日本褥瘡学会による報告では,DESIGN-Rが19点以上であれば,3カ月では治癒しないとされている.本症例は,医師によるデブリードマンが行われているため,電流刺激療法のみの効果とは言い難いが,電流刺激を行うことにより褥瘡治癒の補完療法として効果があったと示唆される.<BR>線維芽細胞はTGF-β1やb-FGF等の成長因子を分泌し,褥瘡治癒に貢献する.そのため,褥瘡部位に線維芽細胞を集めることは,褥瘡治癒期間を短縮すると推測される.杉元らは線維芽細胞に電流刺激を行い,コントロール群に比べ100μAの陰極で線維芽細胞の遊走が大きかったことを報告している.また,本田らは下腿褥瘡患者に対して,50μAの電流刺激を行うことにより創収縮が促進したことを報告している.今回行った電流刺激は1症例であり,コントロール期間もないことから,自然治癒との比較を行うことはできないが,明らかに創収縮期間が短縮されたと考えられる.今後,電流刺激療法による効果を証明するため,コントロール群を用いた比較試験が必要であると考えられる<BR><BR><BR>【理学療法学研究としての意義】電流刺激療法を行うことにより褥瘡治癒期間が短縮することが期待されるため,褥瘡局所治療に有効であると示唆される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), FeOS3068-FeOS3068, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572404608
  • NII論文ID
    130005017810
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.feos3068.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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