伝統食品の原料調達と今日の食料供給の課題

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タイトル別名
  • Procurements of traditional foods and today's food supply
  • with a focus on the food quality of Japanese sweets
  • 和菓子における品質概念をめぐって

抄録

はじめに 近年,食の質に対する関心が高まっている。地産地消やスローフード運動などもその一環である。それらの動きの中では,ローカルな食材を使うことでの安全性の主張や地域振興の取り組みなど,また,画一的な食に対して,地域の伝統的な食品,食文化を守ろうという試みが展開されている。そうした中で比較的伝統的な食品のスタイルを保っているものとして和菓子を取り上げた。和菓子とは洋菓子に対する言葉で,わが国の伝統的な製法によって作られた菓子ということができる。また,和菓子店は広域的なチェーン展開ではなく,個店で地場の市場を中心とした営業をおこなっている店舗,その土地土地の銘菓として昔ながらの製法の和菓子を作り続けている店舗も少なくない。このような特徴を持つ和菓子店を対象として,その原材料の産地,納入業者,および販売先との地理的関係を明らかにすることを通じ,今日の食料供給の一断面に光を当ててみたい。 調査対象 調査対象として,山口市,岡山市,宮崎市の和菓子店を取り上げ,当該地域の電話帳を元に,対象とする店舗をリストアップした。次にこのリストに基づいて調査員が実際に店舗を訪れ,あらかじめ用意した調査票にのっとって聞き取り調査をおこなった。山口市の調査は2009年12月,岡山市の調査は2010年1月,宮崎市の調査は2010年1月~2月にかけておこなった。 このうち山口市の調査はパイロット的な調査であり,旧市内を中心に17店舗での聞き取りをおこなった。岡山市の調査では電話帳から140店舗をリストアップし,その中から重複や確認できない店舗を除いた86店舗に調査員が赴いた。86店舗のうち,調査拒否など回答を得られなかったものが35店舗あり,都合51店舗から有効な回答を得ることができた。同様に,宮崎市では電話帳から54店舗をリストアップし,その中から重複や確認できない店舗を除いた49店舗に調査員が赴いた。49店舗のうち,調査拒否など回答を得られなかったものが17店舗あり,都合32店舗から有効な回答を得ることができた。  調査内容は当該店舗での主力商品を3件まで挙げてもらい,それぞれの商品の原材料の調達先と原産地を問うた。これによって,和菓子店を中心とする食材・食品流通を描き出した。 結果・考察 伝統食品の代表格ともいえる和菓子であるが,多くが域外からの原材料調達によっている。そのこと自体はもはや驚くべき状況ではないが,ここでいくつかの論点を指摘したい。第1は供給体系の全体像で,ローカルに閉じた体系か,広域に開いた体系かという点。第2はこれにかかわって,地元の業者の食材調達能力,および和菓子販売店の出荷能力である。これには山口市,宮崎市,岡山市による違いが認められた。第3は調達先による品目の差異。例えば,海外からは小麦や砂糖などを調達するケースが多く,地元からは卵や果実を調達するといった食材による特徴である。第4は商品による調達体系の違いを指摘したい。廉価な商品と高価な商品における原料調達体系の違いである。決して,地元産にこだわった原材料,あるいは地元で手間暇かけた原材料が高級品に使用されるというわけではない。一定の品質を保つためには有力な原材料産地から調達することが必要なのである。以上を踏まえて,最後に伝統食品の意味について検討を加えたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205594129792
  • NII論文ID
    130005021082
  • DOI
    10.11518/hgeog.2011.0.50.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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