凍結乾燥ウシ精子の発生能に及ぼすコラプスの影響

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抄録

【目的】精子の凍結保存に代わる保存方法として凍結乾燥が注目されているが,満足のいく発生成績が報告されている動物種は限られている。凍結乾燥を適切な条件下で行うと溶液は多孔質のスポンジ様構造 (凍結乾燥ケーキ) を形成する。しかし,溶液の最大凍結濃縮相ガラス転移温度 (Tg’) よりも高い温度で乾燥を行うと,コラプスと呼ばれる凍結乾燥ケーキの構造崩壊が生じやすい。本研究では,凍結乾燥ケーキに生じたコラプスが凍結乾燥ウシ精子の発生能に及ぼす影響について調べた。【方法と結果】示差走査熱量計を用いて測定した,10 mM Tris-HCl,50 mM EGTA,0.5 M トレハロースからなる凍結乾燥バッファーのTg’は,−28℃だった。次に,同バッファーに懸濁した凍結融解ウシ精子を予備凍結したのち,−30℃または0℃に制御した凍結乾燥機中で6時間の乾燥を行った。乾燥温度が−30℃の凍結乾燥ケーキは完全な形状を保っていた一方,Tg’より高い0℃で乾燥した場合にはコラプスが生じていた。続いて,得られた凍結乾燥ケーキの乾燥程度を調べるために含水率およびガラス転移温度 (Tg) の測定を行った。0℃で乾燥した場合の含水率は−30℃の場合と比べて約5倍 (3.6 vs. 0.7%, P < 0.05) だったが,Tgの測定によりいずれも十分な乾燥状態にあることが確認できた。−20℃で一晩保存した凍結乾燥精子を顕微授精 (ICSI) に供したところ,卵割率に差は認められなかった。しかし,胚盤胞発生率については0℃で乾燥した場合の値 (1%:卵割ベース) が−30℃で乾燥したときの値 (14%) よりも有意 (P < 0.05) に低下した。現在さらに,凍結乾燥精子の微細構造やDNA損傷に対する影響を調べている。以上,凍結乾燥ケーキのコラプスはウシ精子に対する乾燥ストレスを増加させ,ICSI後の胚盤胞発生能を低下させることが明らかとなった。

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  • CRID
    1390001205715668992
  • NII論文ID
    130005051160
  • DOI
    10.14882/jrds.106.0.p-32.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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