分娩中に発症して救命しえたが重度の後遺障害を生じた羊水塞栓症の1例

書誌事項

タイトル別名
  • A case of a patient who had amniotic fluid embolism during labor but who was successfully resuscitated with severe neurological sequelae
  • 症例報告 分娩中に発症して救命しえたが重度の後遺障害を生じた羊水塞栓症の1例
  • ショウレイ ホウコク ブンベン チュウ ニ ハッショウ シテ キュウメイ シエタ ガ ジュウド ノ ゴイショウガイ オ ショウジタ ヨウスイ ソクセンショウ ノ 1レイ

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抄録

羊水塞栓症は,羊水および胎便中の胎児成分による肺内小血管の物理的閉塞および羊水中の液性成分によるアナフィラキシー様反応が原因とされる疾患である.今回われわれは,分娩中に羊水塞栓症を発症し,いったん心停止に陥り,救命できたものの重篤な神経学的後遺症が生じた症例を経験したので報告する.症例は32歳未経産で,妊娠経過はとくに異常なく,妊娠38週6日で陣痛発来にて入院となった.翌日,分娩第I期に破水し,子宮口全開大後に高度変動一過性徐脈が出現したためクリステレル圧出法にて男児を娩出した.分娩直後より子宮収縮は不良で子宮収縮剤を投与しても改善せず,分娩1時間後までに約1600gの出血をきたし,分娩から72分後に収縮期血圧が50mmHgまで低下し意識も消失した.昇圧剤投与,濃厚赤血球の輸血を開始したが,分娩から137分後に心肺停止となったため蘇生処置を行い心拍は再開した.抗DIC治療にもかかわらず子宮や静脈ライン留置のため皮膚を切開した右足踝からの出血が持続し,ICUでの総出血量は分娩17時間後までに10000gを超え,分娩翌日に開腹子宮摘出を行った.手術後,抗DIC療法を中心とした集学的治療にて出血傾向は改善したが,大量出血による多臓器不全のため2カ月間ICUでの管理を要した.脳虚血による低酸素脳症は回復することなく,意思疎通困難と左片麻痺のため自宅に退院することができず,分娩から半年後に介護専門病院へ転院となった.本症例では分娩直後から非凝固性の出血があり,分娩1時間後の血液データで著明な凝固・線溶系の亢進を認めたこと,血清中のシアリルTn抗原(STN)が異常高値を示したこと,および摘出子宮の組織診断で体部間質に著明な浮腫と体部筋層の血管内に羊水由来成分を認めたことから羊水塞栓症と考えられた.〔産婦の進歩67(4):381-387,2015(平成27年10月)〕

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