カビによる環境汚染問題

  • 岩橋 尊嗣
    大同大学 情報学部総合情報学科 かおりデザイン専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Environmental pollution problems due to mold

抄録

日本では,これからの季節,温度と湿度の高い生活環境を迎える.そして,梅雨どきのジメジメ感は不快指数を一気に押し上げる.においと湿度の関係の定義は未だ確立されていないが,一般的には,湿度が高くなると,においに対しても敏感になりがちである.これは,高湿度によりもたらされる身体的な不快感との相乗効果も考慮する必要がありそうだ.また,高湿度になると空気の循環性が悪くなり,におい物質は滞留し易くなる.このような現象によっても,人はにおいをより強く,不快に感じるようになる.<br>さらにこの時期,気温・湿度の上昇にともない微生物の働きが活発化する.この時に問題になるのがカビ・バクテリア(細菌)によって作りだされるにおい物質である.本特集では,微生物分野の研究で活躍されている専門の方々に,以下に示すテーマについてご執筆いただいた.いずれのテーマも,読者の方々に有益な情報となり興味深く読んでいただける事を確信している.<br>鍵氏(東工大大学院)には「居住空間での微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)について」という題目で執筆していただいた.真菌(カビ)や細菌(バクテリア)などの増殖と代謝過程において様々なMVOCが産生される.ここでは,カビによって作られるMVOC に特化しての記述である.主たるMVOCはアルコール類,ケトン類,アルデヒド類,スルフィド類,低級脂肪酸類,テルペン類,フェノール類等で,これら多種の物質が複合されて,カビ臭が形成されるようだ.通常,ジェオスミン,2-メチルイソボルネオール類がカビ臭の典型とされるが,室内空間のカビ臭は単純ではなく複合臭である事が解る.<br>柳氏(工学院大)には「空調システム内微生物の汚染とカビ臭の対策」という題目で執筆していただいた.空調システム(エアコン)内は,微生物(カビ,バクテリア)が容易に増殖できる環境が整っている.特に冷房時は栄養分,温度,湿度,酸素(空気)の条件が揃っており,微生物の増殖が活発化され,それに伴ってにおい物質も産生される.<br>また,空調システムで生起する微生物汚染は,外部から空調系を経由する在郷軍人病(レジオネラ肺炎)と空調系自身が汚染源となる加湿器病に分類される事,調査事例も含め空調システムから分離された微生物,さらに殺菌法についても詳細に述べられている. <br>丸山氏(帝京大),安部氏(帝京平成大)らには「植物精油の抗真菌・抗炎症効果〜真菌感染症治療への可能性〜」という題目で執筆していただいた.近年,日本でもアロマセラピーや森林浴などという言葉が定着しつつある.趣味・嗜好的な分野と思われがちだが,植物精油の働きの一つとして,抗菌性・抗炎性など医療としての効能が注目されている.精油には既存薬剤にはない優れた皮膚浸透性や揮発性という物理的特性があり,これを生かした活用法が差別化となる.精油は細菌より真菌に対して強い効果を示すとされ本文中では,白癬菌(水虫)およびカンジダ菌に対する精油の有効性(治療効果)について詳細に述べられ,さらに,抗炎症効果についてもそのメカニズムとともに述べられている.<br>最後に,竹内氏(奈良女子大),木内氏(産総研),鈴木氏(奈良女子大)らには「文化財保全のためのカビ臭対策」という題目で執筆していただいた.文化財の保護・保存で最も厄介なことはカビの発生による損傷であるとも言われている.記憶に新しいものとしては,古墳壁画のカビによる破損消滅がある.国宝や国宝級と言われる文化財がカビによって,いとも簡単に壊されていくのには驚かされる.しかしカビが,目に見えるレベルに達すると,既に被害が出ているらしい.著者らはカビによって産生されるにおい物質に着目し,これらをいち早く検出する事で,目視での確認以前の状態でカビ発生を早期確認出来る手法を開発した.本文ではこれらの研究結果について解説されている.<br>最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面を借り深く感謝申し上げます.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ