イノベーションとマインドセットシフト

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  • 山本 恵司
    千葉大学名誉教授 (国研)科学技術振興機構プログラム

抄録

昭和の時代だった頃に見た映画「Back to the future part 2」で,よれよれの白衣のドクとマクフライ少年を乗せたデロリアン号が大嵐の中向かった未来は,半年ほど前の過去となってしまった2015年10月21日でした.彼らは30年先の未来世界に到着してあらゆることにビックリ,特にinnovationの進展で人々の生活は様変わりしていました.医薬品製剤の世界も30年前と比べてみると貼付剤,口腔内崩壊(OD)錠はライフサイクルマネージメント(LCM)の中に定着し,経肺吸収製剤,コクリスタル製剤,イオントフォレーシスや薬剤溶出型ステントの出現までドク,マクフライが知ったとしたらその驚愕ぶりが想像できます.これらはアイデアの創出から,new product,new market,new material supplier等の有機的結合・発展,つまりinnovationの結果と言えます.<br>我が国では安倍首相が次々と成長戦略の一環として「健康・医療戦略」を発表しており,先日のスピーチでは「医療関係産業の活性化は安倍政権の成長戦略の要であり,特にバイオ医薬品はその柱として健康長寿社会実現の鍵と言えます」と述べています.一貫した医療分野の研究開発の推進とその環境整備を総合的に行うことを目指す日本医療研究開発機構(AMED)の昨年4月の発足はその象徴と言えます.しかし現実には明るい未来が待っているとは限りません.昨年9月に出された医薬品産業強化総合戦略には「我が国として産業構造やinnovationを生み出す力が現状のままでは,日本の創薬産業は生き残りが困難な状況となる.」とあります.事実,先日発表された世界のグローバルイノベーター100社中に日本企業が40社を占めたとの発表の中で,いわゆる製薬会社がその中に1社も入っていない事実からも読み取れます.<br>一方,USFDAは一貫してinnovationに強い意識を持っており,Statement of FDA missionの中にも「各種innovationを加速することでpublic healthを促進する」と記載されています.この流れは医薬品の生産についても確実に及んできており,マインドセットシフト(頭の構造の大転換)を要するinnovationが求められています.繁用される固形製剤の生産を例とすれば,従来からその生産方法は単位操作の積み重ねで構成されており,操作ごとに品質管理検査を行い最終的に優れた品質の製品を提供してきました.しかしinnovationの進展に伴い,これまでのquality by testingから現代ではquality by design(QbD)が主流となり,さらに昔のサンプル検査に代わってprocess analytical technology(PAT)などの技術によりreal time release testing(RTRT)が実現しています.その基礎となるのがrisk managementです.USFDAの医薬品評価研究センター(CDER)長のJanet Woodcock氏は昨春,議会で製剤プロセスを従来のバッチ式から連続プロセスにスイッチしていくことがinnovationであり,将来のあるべき姿であると発言しています.<br>原料の医薬品,医薬品添加剤等を装置に投入して全てをコントロール,テストしながら連続プロセスにより高品質な製剤が生産されるinnovationは実は既に実現しつつあります.我らが得意とする“改善・改良”でガラパゴスへの道を再度たどること無く,世界の動きをリードするためのマインドセットシフトは待ったなしと感じられます.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 52 (5), 373-373, 2016

    公益社団法人 日本薬学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204497803392
  • NII論文ID
    130005149098
  • DOI
    10.14894/faruawpsj.52.5_373
  • ISSN
    21897026
    00148601
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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