腰部多裂筋の選択的強化をコンセプトとした新たな腰痛exerciseの提案

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  • 腰背筋活動様態の筋電図学的解析

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抄録

【はじめに,目的】本邦における腰痛の生涯罹患率は70%を越え,社会問題となっている。腰痛患者において腰部多裂筋(以下LM)は,椎間関節由来のReflex Inhibition(以下RI)によって選択的かつ顕著な萎縮が生じると報告されている。腰痛の軽減および再発の予防にはLMの選択的な強化が必須である。LMの強化を目的とした腰痛exerciseは散見されるが,LMの選択的収縮が認められたという報告はない。腰痛exerciseとして推奨されている腹部ドローイン,バードドッグにおいても同様の傾向が見られる。Global筋の活動は,腰椎にトルクを生み,二次的なRIを惹起する可能性がある。それに対し,LMに代表されるLocal筋は,脊柱における分節的な安定性に貢献する。我々はLMの選択的強化をコンセプトに新たなexercise(以下N-ex)を考案した。本研究の目的は,N-exにおけるLMの活動度および腰背筋の活動局在を筋電図学的解析によって明らかにし,より効果的な腰痛exerciseとして提案することである。【方法】対象は整形外科的疾患の既往のない健常人21名(男性13名,女性8名:平均年齢20.9±0.9歳,平均BMI20.4±1.9)とした。表面筋電計はNicolet Viking IV(Nicolet社)を用い,筋電図導出筋は,Local筋であるLMと,Global筋である胸腸肋筋(以下ICLT)とし,いずれも左側の筋に統一した。全ての筋電図計測は5秒間行い,不安定な前後部分を切り捨てた3秒間の筋電図積分値を得た。全被験者に対して各筋の最大活動時筋電図積分値(MVIC)を得た後,腹部ドローイン,バードドッグ,N-exの3種類のexercise実施時における筋電図積分値(IEMG)を得た。腹部ドローインは腹臥位にて,下腹部に平常時圧70mmHgに調節したマンシェットを敷き,腹部の引き上げによって60-64mmHgの位置で保持させた(C. A. Richardsonら1995)。バードドッグは四つ這い位より,右上肢および左下肢を拳上(肩関節屈曲180°,股関節中間位),保持させた。N-exは治療台に向かい膝立ち位をとらせ,頭頚部,上部体幹前面および両上肢を治療台に接地し,脱力させた。その後,両股関節90°屈曲位となるように治療台の高さを調節し,左側下肢を拳上(股関節中間位),保持させた。LMの活動度を抽出するため,IEMG/MVIC比率(%MVIC)を求め,3群間で比較した。腰背筋の活動局在を抽出するため,ICLT(Global筋)の活動に対するLM(Local筋)の活動比(L/G ratio)を求め,3群間で比較した。統計処理には,いずれも一元配置分散分析を用いた。さらに,有意差が認められた場合にはPost hoc検定としてBonferroni/Dunn法による多重比較を行った。有意水準はp<0.05とした。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,吉備国際大学倫理審査委員会の承認を受けた(12-13)。対象者に対して本研究における主旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。【結果】LMの%MVICは腹部ドローイン群が3.0±3.9%,バードドッグ群が25.7±11.4%,N-ex群が30.3±12.7%であった。N-ex群の%MVICは腹部ドローイン群に対して有意に高比率(p<0.001)を示したが,バードドッグ群との有意差は認められなかった。L/G ratioは腹部ドローイン群が1.0±0.6,バードドッグ群が2.5±1.6,N-ex群が7.2±4.0であった。N-ex群のL./G ratioは腹部ドローイン,バードドッグ両群に対して有意に高比率(p<0.001)を示した。【考察】N-exの活動度は,腹部ドローインに対して有意に高く,LMの強化を目的とした腰痛exerciseであるバードドッグと同等の値を示した。これはN-exにおける腰椎以下の体幹および下肢の肢位が,バードドッグと同様の肢位をとることに由来すると推察する。さらにN-exのL/G ratioは,腹部ドローイン,バードドッグと比較して有意に高い値を示した。N-exを考案する過程で最も重要視した点は,脊柱に発生するトルクを可能な限り除去し,Global筋の活動を抑制することであった。N-exにおけるL/G ratioの高値は,Global筋の活動を抑制した結果であると推察する。Global筋の活動抑制は,exerciseに起因する二次的なRIを予防し得る。以上より,N-exは,推奨されているバードドッグと同等なLMの活動度を示しつつ,LMの選択的な活動も得られる,より効果的な脊柱安定化exerciseであると考える。N-exの腰痛exerciseとしての効果を検証するため,今後,腰痛患者を対象にした介入研究が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究では健常者を対象に,独自に考案したN-exにおけるLMの十分な活動度および選択的活動性を明らかにした。このことからN-exが,LMの選択的萎縮を呈した腰痛患者に対して高い適合性を有する可能性が示唆された。本研究は,真に有効な腰痛exerciseを構築する上で,基礎となるexerciseを提案した。

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