Lifting動作時の筋活動は動作前の座位姿勢の違いによりいかなる影響を受けるか

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著者

    • 新小田 幸一
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門
    • 石島 ゆり野
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻
    • 岩本 義隆
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻
    • 谷本 研二
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期保健学専攻
    • 阿南 雅也
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門
    • 高橋 真
    • 広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門

抄録

【はじめに,目的】2013年の厚生労働省の発表では,腰痛は職業性疾病のうち6割を占め,その原因として長時間のデスクワークやLifting動作時の脊椎や脊柱起立筋に対する負荷が挙げられている。このことから,座位時の姿勢とその後のLifting動作における筋活動の関連性を検討すれば,座位姿勢後にLifting動作を強いられる職種の職業性腰痛の原因解明と予防策に関し,新たな知見が得られると考えられる。そこで本研究は,一般に不良姿勢と言われる脊柱屈曲座位姿勢がその後のLifting動作における筋活動に及ぼす影響を明らかにし,職業性腰痛の予防策考案の一助とすることを目的として行った。【方法】被験者は脊柱や上下肢に整形外科的既往歴および現病歴を有さない健常若年男性8人(身長:1.69±0.62m,体重:65.0±7.2kg,年齢:22.3±1.3歳)であった。課題動作は脛骨粗面の高さに置かれた5kgの重りの入った篭のLifting動作とした。動作方法は膝関節を伸展した状態で行うStoop法を採用し,動作時間は2秒と規定した。自然な脊柱弯曲の状態の座位を10分間保持する前後に行う条件(以下,条件N)と,骨盤後傾位かつ脊柱屈曲位の状態の座位を10分間保持する前後に行う条件(以下,条件F)の2条件を採用し,各条件の計測には24時間以上の時間を空けた。運動学的データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon社製)で,同時に運動力学的データは床反力計(テック技販社製)4基で,筋電データは表面筋電計EMGマスター(メディエリアサポート企業組合社製)で取得した。被験筋は左の腰部傍脊柱筋(以下,LP)と大殿筋(以下,GM)とし,電極貼付位置は下野の方法に準拠した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を用いて,身体重心(以下,COM),標点マーカ座標,セグメント角度を算出した。課題動作の解析区間は篭の床反力が10N以下になった瞬間から体幹の伸展角速度が正から負へと転じた瞬間までとした。また,運動学的データは座位姿勢保持前後の変化をより詳細に検討するために,座位後の値から座位前の値を引いた値(以下,変化量)を算出した。筋電は測定日ごとに最大等尺性随意筋収縮(以下,MIVC)を測定し,動作中の筋活動量をMIVCに対する割合として求めた(以下,%MIVC)。解析区間は100%に時間正規化され,10%ごとに%MIVCの積分値を区間積分値として算出し,運動学的データと同様に変化量を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,本研究を実施した機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。【結果】座位姿勢は条件Fでは条件Nと比較して,股関節屈曲角度および骨盤前傾角度は有意に低値を示し,体幹屈曲角度は有意に高値を示した(p<0.01)。条件NではLPとGMの動作10%区間積分値の変化量と開始時の左外果を原点としたCOMの前後方向の距離(以下,COM<i>y</i>距離)との間に有意な負の相関を認めた(r=-0.89,p<0.01,r=-0.85,p<0.01)。一方,条件Fでは開始時のCOM<i>y</i>距離の変化量は,LPの10%,20%区間積分値の変化量との間に有意な負の相関を認めたが(r=-0.74,p<0.05,r=-0.74,p<0.05),GMの10%,20%区間積分値との間に有意な相関は認めなかった。【考察】条件Nでは動作開始時のCOMが外果から近くなるほど,つまりCOMが対象物から遠くなるほど,LPおよびGMの活動量は増加することが示された。対して条件Fでは,COMが対象物から遠くなるほど,LPのみの活動量がより長い区間で増加することが示された。一般にLifting初期は股関節伸展を主とした運動であり,GMの関与が大きい。しかしながら,条件Fでは,条件Nとは対照的にLifting初期においてGMの活動量は変化しなかった。つまり,GMが弛緩する肢位となる屈曲座位後のLifting初期では,GMの活動量がLPによって代償されていたためであると考えられる。以上のことから,屈曲座位後にそのままLifting動作を行うことは,LPの活動を増加させ,腰痛の発症と増悪のリスクを高めることが考えられる。したがって,このような腰痛の予防戦略として,屈曲座位後においては,LPの代償的な活動を抑制するために,Lifting前にGMを適切に賦活させることが重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,職業性腰痛の予防策を示し,罹患者およびそのリスクの高い者への,適切な動作および生活習慣の構築の指導に関し,理学療法士の介入の有用性を示した点で意義がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2013(0), 0939, 2014

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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