小型3軸加速度計を用いた静止立位時の重心動揺評価

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抄録

【はじめに】高齢者の転倒は偶発的な側面をもつ反面,身体機能の低下と深く関連し,とくに姿勢制御能力の低下は転倒の重大な危険因子とされている。姿勢制御能力の評価では被験者の負担が少なく,方法が標準化され,客観的な指標が得られるなどの理由で足圧中心(COP)動揺を指標とすることが多い。しかし,COP動揺の振幅は身体重心(COG)より大きく,動揺方向の位相に逆転を認めるなどの問題が指摘されている。そのため,COG動揺を直接評価し姿勢制御の指標とすることが望ましいが,計測上の煩雑さや測定機器の問題などから臨床にCOG計測を応用できる施設は限られている。本研究では小型3軸加速度計を用いた静止立位時の重心動揺評価の有用性の検討を目的として,加速度計を腰部正中背面に装着し,身体重心に働く慣性力の加速度(ACC)の変化から推定したCOGを用いて重心動揺を評価し,三次元動作解析装置を用いて算出したCOGとの比較を行った。【方法】対象は健常な男子大学生6名(年齢:20.8±0.4歳,身長:170.2±6.7cm,体重:61.9±5.1kg)とした。被験者の腰部正中後面に加速度計を装着した状態で10秒間の静止立位保持を3回行わせた。ACCデータの計測には小型9軸ワイヤレスモーションセンサ(LP-WS0942,追坂電子機器)を使用し,LPFを用いた遮断周波数10Hzでの高域遮断,測定機器の位置に関連した水平面に対する傾きの調整,移動平均フィルターによる身体動揺に関連したドリフト補正後に得られたACC波形を時間積分することでCOG変位(COGacc)を推定した。COGを算出するための身体座標データの測定には8台の赤外線カメラと4基の床反力計で構成された三次元動作解析装置(MAC 3D system,nac IMAGETECHNOLOGY社)を使用した。Winterらの方法を参考に自作の演算プログラムを用いてCOGを計算し,LPFを用いた遮断周波数10Hzでの高域遮断,オフセットの除去補正を行った。すべてのデータはサンプリング周波数200Hzで記録し,EMGロガー(追坂電子機器)を用いて同期させた。小型3軸加速度計を用いて推定したCOGaccと三次元動作解析装置を用いて算出したCOGの比較には左右(ML),前後(AP)成分の単位時間軌跡長(NPL),実効値(RMS),最大値-最小値で示される最大振幅(PTP)を指標として用いた。統計解析には統計解析用ソフトウェア(SPSS 12.0,SPSS Japan)を使用し,Wilcoxon signed ranks testによる比較を行った。また,COGaccとCOGのAP成分についてカオス解析プログラム(B-CHAOS,ELEMC社)を用いた非線形解析から非定常性を評価した。【倫理的配慮】本研究は所属施設倫理委員会の承認を得て行われ,対象者には実験に先立って紙面と口頭で十分な説明を行い書面で研究参加への同意を得た。【結果】静止立位保持時のCOGとCOGaccの比較ではML成分に有意差を認めなかったが,AP成分ではRMS(COG:3.15±1.83mm,COGacc:2.48±1.69mm,P=0.046),PTP(COG:12.4±8.3mm,COGacc:10.0±7.1mm,P=0.03)に有意差を認めた。非線形解析における最適な埋め込み条件は埋め込み時間が145点(0.73秒),埋め込み次元が5次元であり,その条件でアトラクトを再構成した時の最大リアプノフ指数はCOGで0.06±0.17,COGaccで0.09±0.08であった。【考察】本研究では10秒間の開眼静止立位保持におけるCOG動揺をML成分のRMSを指標として計測した先行研究と同程度のCOG動揺が示された。また,ACCに関しても測定機器の位置に関連した定常重力成分や身体動揺に関連したドリフトを補正することで先行研究と似通った波形が得られた。そのため,本研究で測定した静止立位時のCOGやACCには一定の妥当性が確認されたと考える。ただ,COGacc AP成分のRMS,PTPが有意に低値を示したことから,COGとCOGaccの振幅が異なる可能性があるため,2階積分によって生じる速度や位置の誤差による影響などを含めて更なる検討が必要である。一方,非線形解析ではCOGとCOGaccにカオス性が確認された。少数例の検討であるため本研究結果を一般化することには限界があるが,加速度から推定したCOG変位を用いて重心動揺の評価が行える可能性が示されたことから,今後も検討を継続する意義があると考える。【理学療法学研究としての意義】加速度計を用いた静止立位時の身体動揺評価の可能性を示した本研究結果は,理学療法における勢制御能力評価の発展に資すると考える。

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