歩行時外乱刺激後の姿勢制御反応の筋電図学的研究:手提げ運搬の有無による比較

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著者

    • 北地 志行
    • 医療法人 鉄友会 宇野病院|藤田保健衛生大学 大学院 保健学研究科
    • 寺西 利生
    • 藤田保健衛生大学 医療科学部 リハビリテーション学科
    • 田辺 茂雄
    • 藤田保健衛生大学 医療科学部 リハビリテーション学科
    • 伊藤 慎英
    • 藤田保健衛生大学 医療科学部 リハビリテーション学科
    • 大野 健介
    • 藤田保健衛生大学 大学院 保健学研究科|独立行政法人 国立長寿医療研究センター
    • 周 ユンタオ
    • 藤田保健衛生大学 大学院 保健学研究科|独立行政法人 国立長寿医療研究センター

抄録

【はじめに,目的】転倒は,外乱負荷応答が破綻した場合に起こる。高齢者の転倒の25%以上がスリップで生じ(Norton, 1997),近年,スリップ様の外乱刺激後の姿勢制御反応に関する研究が行われている。身体動揺に対する転倒の回避には前脛骨筋の早い反応(Gollhofer, 1986)とステッピングが重要であると報告されている(Kojima, 2008)。更に,屋外歩行時の多くは荷物を運んでおり,在宅高齢者80歳代女性の転倒の66.7%が荷物運搬時に発生している(飯干明,1997)。本研究の目的は,手提げ運搬の有無による外乱刺激後の姿勢制御反応を比較検討し,ステッピング時の筋電図パターンを明らかにすることとした。【方法】健常成人男性20名の内,2条件で外乱刺激後に左足ステッピングが出現した6名(平均年齢23.3±2.4歳,平均身長169.2±3.9cm,平均体重58.8±4.3kg)を用いた。被験者は両側分離型床反力計内蔵トレッドミル(テック技販社製)上を平地最大歩行速度の30%で歩行し,外乱刺激は右踵接地時に右側ベルトを500msec間100%減速し与えた。条件は運搬なし(以下,定常),右手提げ運搬(以下,右手提げ)の2条件とした。荷物重量は被験者の体重の10%を用いた。外乱刺激前後の8秒間を1施行計測した。計測には,MQ16筋電計(キッセイコムテック社製)を使用しサンプリング周波数1000Hzによって,両側の前脛骨筋(以下,TA),腓腹筋内側頭(以下,GC),大腿直筋(以下,RF),大腿二頭筋長頭(以下,BF)の計8筋の筋電図データを得た。各筋の筋電図データは,本実験開始前に計測した最大随意収縮時の電位にて正規化し%MVCにて算出した。検討項目は,①両条件の外乱刺激後の3区間(1.右足接地(外乱刺激時)~左足離地まで,2.左足離地~左足再接地まで,3.左足再接地~左足再離地まで)の左足ステッピングの時間(床反力データからサンプリング周波数1000Hzで収集した),②両条件の外乱刺激後の各筋の反応時間とした。反応時間は,外乱刺激前の各筋の2000msec間の筋電図データの平均+3SDを閾値とし,外乱刺激後50msec間は伸張反射と捉え除外した。③両条件の外乱刺激後の3区間における筋電図データから各区間での各筋の最大%MVCとした。統計解析には,SPSS(IBM社製)を用いて,外乱刺激後の各条件内での各筋間の比較は一元配置分散分析後多重比較を実施し,その他の要因間の比較は対応のあるT検定を実施した。有意水準は5%未満とした。【結果】①左足ステッピングの時間(msec)は,左足離地(定常/右手提げの順で示す)194.3±82.2/174.7±37.7,左足再接地486.0±154.3/397.2±136.7,左足再離地967.2±208.5/887.2±190.1となり,右手提げで左足離地・左足再接地・左足再離地が短縮した。両条件間に有意差はなかった。②各筋の反応時間(msec)は,右側はTA85.5±48.0/89.2±58.0,GC246.3±91.4/223.6±139.2,RF62.7±19.4/63.3±9.2,BF230.3±129.7/153.2±66.6となり,GCとTA・RFに有意差があった(P<0.05)。RF,TA,BF,GCの順で反応し,右手提げでTA,RFの反応時間が遅延した。左側はTA168.7±60.3/163.2±48.0,GC225.5±145.9/374.0±203.1,RF177.0±40.0/177.3±65.1,BF120.7±53.2/139.5±65.3となり,BF,TA,RF,GCの順で反応し,右手提げでGC,RF,BFの反応時間が遅延した。両側ともに両条件間の有意差はなかった。③3区間の各筋最大%MVCに両条件で差がみられた箇所を提示する。区間2の右TA14.6±27.2/11.2±31.6,左TA11.5±26.1/7.4±11.0,区間3の右TA10.3±28.1/13.7±13.1,左TA8.5±33.7/8.0±19.1,となり,右手提げで両側TAの最大%MVCが遅延した。【考察】右手提げは定常より外乱刺激後の身体動揺が大きくなると報告があり(北地,2014),本研究では,右手提げが定常より外乱刺激後の身体動揺が大きく,左足離地と接地を短縮することで転倒を回避していると考えられた。Nashnerらは,立位時の外乱に対して足関節戦略と股関節戦略を報告している。今回は,両条件で右RF,右TAの順で反応しており,股関節戦略を用いていたと言える。今回の対象は若年健常者であったが,右手提げは外乱刺激後の身体動揺の検出に重要な右TA反応,ならびに,後方への身体動揺に対する回復に重要な左GCも遅延がみられており,転倒リスクを高める要因になると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究は,手提げの運搬で転倒危険性が増すことを示唆しており,転倒予防の予備的検討として意義がある。地域在住高齢者に対する日常生活動作を指導する際に役立つと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2014(0), 0223, 2015

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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