6種類のトレーニング方法における腹直筋・腹斜筋活動の比較

DOI
  • 遠藤 洋平
    医療法人社団 健育会 竹川病院 リハビリテーション部
  • 田口 孝行
    埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ~高齢者に対する腹筋トレーニング方法の提案~

抄録

【はじめに,目的】腹筋群は脊柱安定化,能動的腰部安定化機構に作用しており,腰椎疾患を有する患者や糖尿病患者にも重要な機能とされている。また,強制呼気時にも作用するため咳嗽力に大きく関与しており,山下らによると咳嗽力とADL能力は正の相関があるとされている。また瀬下らにより,腹筋群の強化は転倒予防の効果があるとの報告がされている。これらより,介護予防には腹筋群の機能維持が重要と考える。腹筋トレーニング(Abdominal muscles training:以下AbsT)は,一般的に背臥位で頭部を持ち上げる方法があるが,抗重力活動を要するため高齢者にとっては運動強度が高すぎる場合が多く,高齢者に対する運動ではAbsTは行われていない場合が多い。また,高齢者の運動は座位や立位で行われることが多く,これらの姿勢でのAbsTが必要であると考える。しかし,座位や立位でのAbsTはいまだ確立されていないのが現状である。そこで本研究では,座位及び立位で行えるAbsTを6種類考案し,腹筋群の筋力増強効果の可能性について筋活動面から明らかにすることを目的とした。【方法】対象は中枢神経系や脊椎疾患,腰痛を有さない健常男子大学生14名とした。測定筋は,右外腹斜筋・左腹直筋中部・左内腹斜筋の3つとし,筋活動の測定には表面筋電図(日本光電 誘発部位・筋電図検査装置MEB-2200シリーズ)を使用し鈴木らの先行研究に準じて貼付位置を設定した。測定筋の最大随意等尺性収縮(以下MVC)時の筋活動をダニエルスらの徒手筋力検査法第9版のMMT5に準じた肢位で測定し,その後トレーニング動作を実施した。トレーニング動作は,1)MMT3の動作と,椅子座位姿勢・立位姿勢にて5つの動作,2)座位両下肢拳上 3)座位左下肢拳上し右上肢で抵抗 4)座位両下肢大腿遠位部を両上肢にて下方押し 5)座位右上肢を背もたれに固定し体幹左回旋 6)立位左下肢拳上し右上肢抵抗,計6種類の動作遂行を指示し,各動作5秒間測定した筋電図波形の安定した1秒間の積分筋電図(IEMG)を求めた。分析方法は,算出したIEMGから最大随意等尺性収縮を100%として正規化し%MVCを求めた。3つの測定筋における6つの動作群間の差を比較するため,一元配置分散分析後,Turkeyの多重比較検定を実施した。有意水準5%とし,統計処理にはSPSS Ver.15.0Jを使用した。【結果】腹直筋は,1)3)4)で40%MVC以上の筋活動が認められ,それぞれ2)5)と有意差が認められた(p<0.05)。2)6)の動作間では有意差は認められなかった。右外腹斜筋は,1)で40%MVC以上の筋活動,3)4)5)6)で70%MVC以上の筋活動が認められた。2)と他の動作,1)と6)の動作で有意差が認められた(p<0.05)。3)4)5)6)の動作間で有意差は認められなかった。左内腹斜筋は,5)6)で40%以上の筋活動,3)4)で70%以上の筋活動が認められた。2)の動作と3)4)5)6)の動作,1)の動作と3)4)の動作で有意差が認められた(p<0.05)。3)4)5)6)の動作間,1)の動作と5)6)の動作でも有意差は認められなかった。【考察】Hettingerらの報告によると筋力増強効果を得るためには40%MVC以上の筋活動を必要とし,全ての筋線維を動員して強化するためには70%MVC以上の筋活動を必要とされている。また等尺性収縮の場合,負荷強度は最低でも40%MVC以上で15~20秒間,70%MVC以上で6~10秒間必要とされている。このことから,腹直筋は3)4)の動作を15~20秒間実施することで筋力増強効果が得られる可能性が示され,腹斜筋群は3)4)5)6)の動作を6~10秒間実施することで筋力増強効果が得られる可能性が示された。一般的なトレーニング方法の1)の動作と比較した結果,腹直筋は有意差が生じていないが,右外腹斜筋は6)の動作,左内腹斜筋は3)4)の動作で有意差が認められた。3)4)5)6)間で有意差がないことや,座位の方が立位に比べ安定性が高いことを考慮すると,腹斜筋群は背臥位でのトレーニング方法よりも3)4)5)の動作が簡便かつ効果的で,高齢者にとって負担が少ないトレーニング方法となりうる可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,座位や立位動作時の腹筋群の筋活動を計測・比較し,筋力増強効果の有無の検討を行うための基礎研究として実施した。今後の課題は,収縮様式の違いによる検討の必要性があることや,円背姿勢などアライメントの影響・認知機能の影響が推察される高齢者を対象として各動作時の筋活動量を測定することが挙げられる。また,臨床場面で本研究にて高い筋活動が得られた動作を遂行させ,ADL能力との関連性について検討する必要があると考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577084928
  • NII論文ID
    130005248359
  • DOI
    10.14900/cjpt.2014.0643
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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