生業の変化からみたスキー観光地域の変容

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  • Changes the ski tourist region in terms of subsistence
  • ―長野県飯山市太田地区を事例に―
  • : a case of Ota, Iiyama city, Nagano, Japan

抄録

Ⅰ 序論<br> 日本におけるマスツーリズムの縮小や観光行動の変化は,宿泊施設の廃業やリゾート施設の閉鎖など観光地域の停滞をもたらしてきた.1993年頃以降のスキー観光衰退期(呉羽 2009a)には,スキー場とその周辺地域(スキー観光地域)を中心に立地した民宿の廃業が相次ぎ,北関東や信越地方の民宿では経営の低迷が続いているとされる(山村 2010). 日本のスキー観光地域における民宿の変容に関する観光地理学的研究は,民宿が増加した高度経済成長期から1990年代までの分析が中心である.2000年代以降を分析した研究では,スポーツ合宿やグリーンツーリズムなどの夏季観光の発展(呉羽 2009b),インバウンド観光の発展(金 2009)等が明らかになった.一方,民宿経営は住民の重要な生業で,その廃業や経営の低迷は住民の生業変化に結びついていると予想されるが,スキー観光衰退期における実態は明らかでない.<br>本研究は,スキー観光衰退期におけるスキー観光地域の変容を明らかにする.研究方法は,各世帯の就業形態,民宿後継者世代の就業の分析である.事例地域は長野県飯山市太田地区とした.<br>Ⅱ 太田地区における主な生業と観光の発展過程<br>太田地区では,戦後,稲作中心の農業や冬季の出稼ぎが主な生業であった.住民は1956年にスキー場を開設し,その周辺に民宿が集積することで,スキー観光地域に変貌した.戸狩温泉スキー場(以下,スキー場)の入込客数は,1992/93年の55万人が最多で,1996/97年には28万人に急減し,2015/16年には約9.8万人になった.宿泊施設数は1978年の154軒が最多で,1992年には137軒,2015年には68軒に減少した.減少した民宿の多くは,ゲレンデから約1km離れた場所が中心であり,2016年時点で営業する民宿は,ゲレンデに近接する北条,五荷,瀬木,蕨野,曽根集落に分布する.1994年からは,小中学生が民宿に少人数で分宿して農作業や体験活動などを行う「自然体験教室」を受け入れ,春と秋の宿泊者が増加している.<br>Ⅲ スキー観光衰退期における太田地区の生業の変化<br>以下では,ゲレンデが至近にある五荷,瀬木,蕨野の集落における各世帯の就業形態について述べる.2016年時点で全102軒中,民宿経営世帯が48軒,非民宿世帯が54軒ある.瀬木の場合,民宿22軒中,民宿経営に従事する世代は50 歳代以上が中心であり,40歳代従事者がいるのは8軒,30歳代は4軒にすぎず,30歳代従事者は全員太田地区で飲食店を経営している.民宿が10軒ある五荷でも30代従事者は3軒のみである.一方,同居する家族が雇用労働に従事する世帯は,民宿経営世帯で10軒,非民宿世帯で32軒ある.非民宿世帯54軒のうち,スキー観光衰退期の1993年以降に民宿を廃業した世帯は少なくとも20軒確認された.このうち,2016年時点の各世帯の生業は,雇用労働+農業が11軒,年金収入のみが4軒,農業のみが3軒,雇用労働のみが2軒であった.子どもが転出した世帯は,民宿経営世帯で14軒,非民宿世帯で23軒ある.これは多くの場合就業のためで,北信地域や東京など大都市圏に居住している.よって,高齢夫婦のみの世帯も多い.<br>Ⅳ 生業の変化からみた太田地区の変容<br>民宿経営が重要な生業であった太田地区が,スキー観光衰退期にⅢの状況に至った規定要因をスケール別に考察する.社会的には,スキー観光の衰退と上信越道開通に伴う日帰りでの来訪があり,宿泊需要が低下した.また,コメの販売価格も低下している.地域的には,春と秋の重要な観光である自然体験教室における1軒あたりの受入人数が少ないため,スキー観光衰退による減益分が補えていない.またスキー場に近い集落の多くは所有する耕地面積が0.5~2haで,農業収入も限られる.さらに,太田地区は都市部と遠隔であり,近隣の雇用労働の場が限られる.以上から,世帯においては,スキー場の入込客が急減した1990年代中盤以降に学卒した現在の40歳代前半以下の者が,雇用労働への就業を志向し,転出も促進された.よって民宿の後継者は減少した.<br>Ⅴ 結論<br>スキー観光の衰退によって宿泊業が縮小したことで,太田地区の世帯の経済基盤は雇用労働など地域外への依拠を強めている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695485952
  • NII論文ID
    130005279810
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100069
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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