遺伝子組換え生物に対する生態リスク評価の現状と課題

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タイトル別名
  • The present status and problems in ecological risk assessment on genetically modified organisms

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抄録

GM生物の侵入による生物多様性に影響を与える可能性のある事象として、在来同種または他種との競合による生物多様性の減少や種または地域個体群の絶滅、有害物質の産生による捕食者の絶滅や減少、交雑による在来種の遺伝的固有性の喪失やそれを通じた副次的な被害拡大などが想定される。新たなGM生物の認可に当たっては、これらの生態リスクについて、発生確率とハザードを評価すべきである。そのための既存の数理モデルとしては、個体数の増減のみを考えるスカラーモデル、齢構成を考慮した生活史モデル、個体群間の空間構造を考慮したメタ個体群モデルと、ストレスへの感受性のばらつきなど個体ごとの属性を記述する個体ベースモデルなどがある。さらに、他種への副次的影響を考えるためには多種を想定した食物連鎖モデルも必要になるだろう。それぞれのハザードを定量評価するためには、①在来種の個体群サイズ、齢構成、繁殖率とその変化等を把握(競合、有害物質)、②個体群内における遺伝的影響の程度把握(交雑)、③GM生物の個体群サイズの把握(競合、有害物質、交雑)、④在来種による有害物質の摂取量及び感受性のばらつきなどの情報が必要である。また、GM生物と非GM生物は野外観察による同定は難しいが、いくつか実用的な生化学的手法が開発されている。現状では,定量的・確率的評価を行えるだけの情報基盤が足りないと考えられ、野外において実際にGM生物やその交雑体を発見し、その動態を観測すれば、その後のリスク評価に多くの知見が得られるだろう。そのためのモニタリング体制の構築が重要である。

収録刊行物

  • 日本生態学会誌

    日本生態学会誌 66 (2), 309-318, 2016

    一般社団法人 日本生態学会

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