体性感覚情報処理におけるpredictive coding

DOI
  • 大鶴 直史
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院 生体環境適応科学研究室
  • 橋詰 顕
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院 脳神経外科学教室
  • 中川 慧
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院 生体環境適応科学研究室
  • 猪村 剛史
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院 生体環境適応科学研究室
  • 弓削 類
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院 生体環境適応科学研究室

抄録

【はじめに,目的】感覚情報処理において,これまで脳は刺激の入力に対し出力を行うbottom-up情報処理を行っていると考えられてきた。しかし近年,脳の情報処理の本質は常に入力される刺激を予測すること(predictive coding)であるという仮説が注目を集めている。この仮説は,脳卒中後の失認や慢性疼痛などの病態解釈に新しい方向性を与えることが期待されている。これまでの基礎研究において,特に視覚系および聴覚系においてこのpredictive codingの存在を支持する研究が報告されている。しかし,体性感覚においも同一の情報処理過程が存在するかは明らかになっていない。そこで本研究では,呈示確率の操作を行った体性感覚刺激を用いて,体性感覚刺激に対する皮質応答がpredictive coding仮説に基づく反応であるかを検討することを目的とした。皮質活動の記録には,脳磁場計測装置(MEG)を用いた。【方法】対象は,神経系に異常の無い健常成人男性10名とした。刺激電極はフェルト電極を用い,刺激部位は左手背とした。刺激条件は,3秒間(long刺激)および1.5秒間(short刺激)持続する2種類のトレイン刺激(100 Hz)を用いた。実験条件は,long刺激が25%,short刺激が75%の確率で呈示される条件(条件1),short刺激が25%,long刺激が75%の確率で呈示される条件(条件2)とした。すなわち,条件1では脳はshort刺激が来る確率が高いと予測し,条件2ではlong刺激が来る確率が高いと予測すると考えられる。上記2条件におけるshort刺激に対する皮質活動を,306チャンネル全頭型MEGを用いて計測した各条件の施行順は,被験者ごとにランダムとし,25%呈示刺激の加算回数を80回とした。解析には,等価電流双極子(ECD)推定法を用い,活動源を推定した。また,被験者には,全条件において計測中無音ビデオを見せ,注意の影響を除外して実験を行った。条件間の皮質活動振幅の比較には,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】各条件におけるshort刺激に対し,刺激開始時および刺激消失時に明瞭な活動が記録された。ECD推定により,活動源は刺激対側の一次,二次体性感覚野および同側の二次体性感覚野に推定された。刺激開始時の活動は,全ての活動源において条件1および条件2の間に有意な変化が認められなかった。一方,刺激消失時の活動は,全ての活動源において条件2において有意な振幅増大が認められた。【結論】long刺激が来ると予測している条件2において,short刺激が呈示された場合,刺激消失時の皮質活動に有意な振幅増大が認められた。すなわち,体性感覚情報処理においても,皮質の予測に基づいた予測エラー反応が存在することを示唆している。このことは,MEGで記録される体性感覚情報処理に対する皮質活動の少なくとも一部は,末梢の物理的刺激に対するbottom-up情報処理では無く,予測に基づくpredictive codingを反映している事が示唆された。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205578106368
  • NII論文ID
    130005417592
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0582
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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