高齢な脊髄不全損傷者一症例に対する立位姿勢の調節的介入:重心動揺リアルタイムフィードバックシステムの即時的効果

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抄録

【はじめに,目的】近年,脊髄損傷者の受傷年齢分布は高齢者をピークとする一峰性となっており,高齢者の不全損傷患者の割合が増加している。立位姿勢や歩行運動の改善を目指してリハビリテーション介入を行う上で,高齢な症例の場合には,痙性など脊髄損傷の病態特有の影響に加えて,加齢の影響も考慮する必要がある。重心動揺リアルタイムフィードバックシステム(以下,BASYS テック技販社製)は,リアルタイムに検知した立位姿勢時の重心動揺を本人の知覚にのぼらないレベルで「増幅(anti-phase)/減衰(in-phase)」させることで,立位姿勢の調節的介入を行う装置である。フィードバックモードの設定において,「本来の自律的な姿勢調節が損なわれている高齢者など」にはanti-phaseが推奨され,「反射亢進や起立震戦などにより立位姿勢動揺の大きい患者」にはin-phaseが推奨されている。今回担当した脊髄不全損傷者は,痙性に代表される病態由来の姿勢動揺の増加は顕著ではなかったことから,加齢による影響が相対的に大きいと考え,anti-phaseを選択して立位姿勢に対する調節的介入をおこなった。その結果,立位姿勢と重心動揺において即時的効果が得られたため報告する。【方法】対象はC3-6の脊柱管狭窄症とC4の中心性脊髄不全損傷を呈した70歳代後半の男性である。転倒により受傷,受傷1ヶ月後にC3-6椎弓切除術施行,受傷95日目に介入した。ASIA Impairment Scale(以下,AIS)はD,AISの下肢筋力スコアの合計は38/50点,改良Frankel分類はD1,SCIMは32/100点,足部クローヌスは(+),Modified Ashworth Scaleは下肢筋ではほぼ0,立位は屈曲姿勢であった。BASYSを用いて身体重心動揺量の10%のフィードバックにてanti-phaseによる調節的介入を30秒×2回,実施した。介入前後の変化を重心動揺変数(95%楕円信頼面積,平均移動速度,COP前後方向の平均位置)および立位姿勢時の関節角度(股関節,膝関節,足関節)によって評価した。【結果】立位姿勢時の関節角度は股関節屈曲22→18°,膝関節伸展-47→-42°,足関節背屈5→2°となり,介入後に屈曲姿勢の軽減を認めた。重心動揺変数は95%楕円信頼面積0.37→0.12cm<sup>2</sup>,平均移動速度0.49→0.30cm/secと減少傾向を示し,COP前後方向の平均位置は足圧中心を基準として8.93→8.80cmとほぼ変化を認めなかった。【結論】本症例は脊髄不全損傷者であるが立位姿勢の痙性の影響は小さく,屈曲姿勢や重心位置の後方変位など加齢による影響が大きいと考え,BASYSによる介入指針をanti-phaseによる自律的な姿勢調節の惹起とした。介入後には,立位姿勢は直立位に近づき,動揺の面積と速度は減少した。anti-phaseでの調節的介入は,下腿三頭筋の反射感受性を増幅させる作用を持つことから,介入を経て下腿三頭筋の貢献度が増加し,立位姿勢下での足関節背屈角度(下腿の前傾角)が減少した結果,立位姿勢の安定性がもたらされたものと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2015(0), 0943, 2016

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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