数値標高モデルのステレオ画像を用いた活断層地形判読

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  • Fault geomorphology on the fluvial plains interpreted by the stereoscopic images produced from digital elevation model

抄録

I. はじめに<BR> 航空レーザー測量など精密な測量によって得られた情報をもとにした数値標高モデル(DEM)が整備されるようになり,鳥瞰図(鯨瞰図),等高線図などを作成し,変動地形学的な研究で利用が進んでいる.さらに,DEMを基にして空中写真同様に実体視が可能な画像とする方法についての検討が行われ,その有効性について検証が行われつつある(後藤・佐藤,2003;岩橋ほか2011,今泉ほか,2012など).<BR> 2007年に制定された地理空間情報活用推進基本法のもと,国土地理院によって基盤地図情報が整備されるようになった.地形情報では全国を網羅した10mメッシュのDEMや平野部の5mメッシュのDEMが順次,公開されている.<BR> 本研究では,基盤地図情報に公開されているDEMすべてを用いてステレオ画像を作成して活断層地形を判読し,これまでの活断層分布と比較した.その結果,これまで報告されていない変動地形を新たに見いだすことができた.これらのうち,主なものを報告し,活断層地形の判読におけるDEMのステレオ画像がもつ長所や可能性について改めて提示したい.<BR> 本研究で用いたDEMは,国土地理院の基盤地図情報である全国を網羅した10mメッシュのDEMと平野部を中心とする5mメッシュのDEMである.これらのDEMを用いて右眼でみる画像を正射画像とするステレオ画像(アナグリフ)を作成した.これに地理情報を与え,地理情報システム(GIS)に読み込んだ.GISで従来の活断層図と重ね合わせ,ステレオ画像を判読しながら,従来の断層図との違いを検討した. <BR>II. 市街地で新たに認定された変位地形の例(名古屋市街地を横切る活断層)<BR> 名古屋市街地付近に分布する熱田面は,古矢田川が形成した南北に延びる大曽根面によって東西に分断されている.熱田面の西半部の地形面は南北に長軸を持つナマコ状の高まり地形を成し(新収名古屋市史編集委員会編,1997),その西縁は直線状の崖地形に限られる.この崖地形に沿って中田・今泉編(2002)では活断層の存在が推定されている.5mメッシュDEMから作成したステレオ画像を見ると,この推定活断層の北延長の沖積面において,変動地形を新たに認識できた.この断層を堀川断層と呼ぶ.<BR>III. 平野部の長波長の変形を新たに捉えた例―過高感を強めたステレオ画像―(法林寺断層による庄川扇状地の変形)<BR> 富山平野のうち,呉西平野の西縁には,宝達丘陵の東麓に沿って石動断層が延び,南部には蟹谷丘陵の東麓に沿って法林寺断層による変位地形が知られている(活断層研究会編,1991など).近年,大縮尺の空中写真を用いた判読が行われ,詳細な活断層分布図が刊行されている(池田ほか,2002;中田・今泉編,2002;堤ほか,2002など).5mメッシュDEMから作成した過高感を強めたステレオ画像では,これまで法林寺断層の北端とされていた小矢部川左岸よりも北の庄川が形成した扇状地面上にも変動地形を認めることができた.<BR>IV. 10mメッシュDEMのステレオ画像で新たに認められた変動地形の例(石狩平野南西縁)<BR> 石狩平野南西縁に位置する野幌丘陵は,南北に軸をもつ背斜による隆起や変形が認められ,東西両翼には撓曲変形が認められる(池田ほか,2002など).10mメッシュDEMを用いてステレオ画像を作成し,地形判読を行ったところ,この南延長上にあたる支笏湖東方に,活背斜が新たに見出された.支笏湖の東から千歳にかけては,支笏火砕流堆積物によって構成される東に緩やかに傾斜した地形面が広がる(町田・新井,2003).この地形面上に,南北に軸をもつ背斜変形が認められ,西翼の地形面は原地形の火砕流堆積面とは逆向きとなっている.この変形を千歳背斜と呼ぶ.<BR>V. おわりに 国土地理院が公開している基盤地図情報のDEMを利用してステレオ画像を作成し,活断層地形判読を行った.その結果,新たな変動地形を見いだすことができた.これらの活構造については,今後,活断層の有無や活動性について検証される必要があるが,後藤・中田(2011)の指摘のとおり,市街地において地形のみに注目して判読できる点や,過高感を強めることで微小な変形を捉えることができる点,スケールを変えて連続性に注目して判読できる点などが有効に作用したと結果と考えられる.上記ほかに,京都盆地や角田・弥彦断層,十勝平野においても変動地形がが新たに認められた。<BR> DEMから作成したステレオ画像は,従来の空中写真を用いた地形判読方法を完全に代用するものではないが,応用範囲は広く,空中写真を用いた判読を支援・補強する素材として貴重と考えられる.<BR>※本研究で使用した画像の一部をwebサイトにて公開中<BR>「傾斜角で表現した日本の地形アナグリフ」<BR>http://home.hiroshima-u.ac.jp/hgis/anaglph_japan

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680673224832
  • NII論文ID
    130005456941
  • DOI
    10.14866/ajg.2012a.0_100139
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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